俺は、ダイビングの後片づけが終わると、おやじさんに声を掛けた。

 おやじさんは、黙って俺の話を聞いてくれた。

「それで、ここも休みの日は続けさせて欲しいんです」

「お前の気持は分かったが、さすがにそれは無理だろう?」


「俺決めたんです。両方背負うって」

「はあ? 誰が背負ってくれってたのんだ?」

 おやじさんの声が、ムッとなった。でも、俺は容赦せずに言った。


「自分の会社で必要とされる奴になったら、ここでも必要とされるって言いましたよね?」


「言ってねぇよ。どこでも必要とされん奴はここでも必要ないと言ったんだ」


「とにかく、会社でもここでも必要とされる人間になるんで…… その時は、背負わしてもらいますから……」


「はあ? お前はアホか?」
 
 ショップの扉がバタンと開いた。

「また、アホって言われたの?」

 奏海が嬉しそうに顔を出した。


「こら、立ち聞きするな!」

 おやじさんは声を上げたが、それほど怒った様子もなく、気のせいか笑みを浮かべているように見えた。


「違うわよ。アホってとこだけ聞こえてきたから覗いただけよ」

 奏海は、ぷーっと頬を膨らました。

 俺は、通りすがりに奏海の頭をポンと撫でた。


「俺はアホで良かったよ」

「ええ―。あはははっ……」

 奏海の止まない笑い声が響きわたった。