「おやじさん、俺、ここで働いちゃダメですか? もし、他のバイト探すなら俺を……」

 おやじさんは、残ったビールを一気に飲み干した。そして、俺の目をじっと見た。


「海里…… お前が、今どんな物を背負っているのか? これからどんな物を背負っていくのか? 正直俺には想像もつかない…… だけど、人には向き合わなきゃならん時があるんじゃないのか?」


「……」

 俺は、黙っておやじさんの言葉を胸の中に落とし込んだ。


「お前が、この店を慕ってくれている事も嬉しいし、正直助っている。だけど、お前や勇太に甘えてばかりいる訳にもいかんのだ。お前らには、お前らの背負わなきゃならん物がある」

 おやじさんは、太く重々しい声で言った。


「おやじさん、俺は、今それを背負うべきなのか迷っているんです。俺が居なくても正直会社は成り立って行くんです」

 俺は、缶を持ち上げ口の中に流しこんだ。


「そうだろうな…… お前が居なくても困りゃしないだろうな」

「ふふっ……」

 俺は力無く笑った。


「だが、自分の会社でも必要のない奴は、うちでも必要ないぞ」

 えっ!

 俺は、あまりにもショックな言葉に、おやじさんの顔を見上げた。


「俺、やっぱりダメですか?」

 なんだか、世の中全てから見放されたような孤独に押し寄せられたような気がした。

 親父さんは大きく息を着くと、ゆっくりと口を開いた。

「海里…… とにかく一度は背負ってみろ。出来るも出来ないもそれからだ…… 何もしないまま逃げるな。そして…… ここをお前の逃げ場にするな。ここは、お前を受け入れる場所だ。お前が疲れた時、安らげる場所ならそれでいい……」


 俺は、ハッと我に返った。
 自分が逃げる事ばかり考えていた事を簡単に見抜かれた。これから待ち受けている事に、どう向き合っていくのか、俺は一度も考えた事が無かった。

 自分に何か出来るのか、何をすべきか…… そして、何をしたいのか?
 俺は初めて自分の人生に向き合った気がした。

 カタンッ

 カウンターの上に、新しいビールの缶が置かれた。梨夏さんが、俺を見てニコリと笑顔を向けた。あの、絶対的な笑顔だ。
 その後ろからひょっこりと覗かせたもう一つの笑顔を見た時、俺の心は決まった。