スキュバーダイビングのライセンスは一応持っているが、さすがにインストラクターの資格は無い。


 船に乗り込み、二十分ほどでダイブスポットに到着した。

 俺の役目は、船の上に待機して、耳抜きに苦戦する人にアドバイスしたり、上がってきた人達へのフォローだった。


「お前潜れるのか?」

 客を船から降ろすと、めずらしく勇太が声を掛けて来た。


「一応ライセンスはある。」


「潜るか?」


「え?」

 予定外の事葉に、俺は耳を疑った。


「姉ちゃんと、かなちゃんが潜りたいってうるせぇんだよ」


「ああ、俺も潜りてぇ」

 心の中がふっと明るくなった気がした。又、何か知らない世界を知る事が出来るんじゃないだろうか? そんな気がして、胸の鼓動が高鳴った。


「おやじさん、午後の客終わったら、船出してよ」

 勇太が、声を上げた。


「ああ」

 おやじさんは、顔も上げず言った。