「なに?」

 梨夏さんは、ふっと顏をあげ足音のする方へと目を向けた。


「雨、強くなってきたよ」

 店へと入ってきた彼女は、俺には目もくれずテラスへ向かう窓へと走っていった。


「大丈夫よ。この嵐は、直ぐに去るわ」


「ほんと?」

 彼女は、ほっとしたように肩の力を抜いた。


「だから、あなた達も嵐が去るまで、ここに居なさいね」

 梨夏さんは、俺達のほうをチラリと見た。


「はい」

 としか言えない。


 それでも、彼女は俺の存在など無いように、窓から海を眺めたり、母親になんやかんやと話しかけていた。その姿は、高校生らしいあどけなさを感じるものだった。ボードに乗っている時の、凛々しさは無いが。俺は彼女の姿を見ている事に飽きなかった。


 ふと、突然彼女が俺の方を見て、きりっと睨んだ。その目に、俺は嫌われている事を思い出した。

 ピンタくらんたんだった。


 梨夏さんの言ったとおり、一時間ほどで雨は静かに治まる気配を見せ始めた。