喫茶店に戻ると、梨夏さんにカウンターへ座るよう促された。すでに後輩は座っている。

 俺が座ると、カウンターの上に湯気のたったカップが置かれた。


「どうぞ」

 梨夏さんは、笑顔を俺に向けてに言った。

 この人に逆らえないんじゃないかと思うほど、梨夏さんの笑顔は絶対的なものがあった。


「ありがとうございます……」

 ここに居ると、自然とそんな言葉が出てしまう。


 俺はカップの中を覗いた。そこには、具がしっかりと入った野菜スープが入っていた。俺は、目の前のスプーンを手にし、カップの中からすくったスープを口に運んだ。口の中に広がった優しい味が、体の中に暖かく染み渡る。冷えた体が、ほっとしている事が分かる。


「うまい……」

 ぼそっと、口から漏れた。
 
「あら、良かったわ」

 梨夏さんは、嬉しそうにほほ笑んだ。

 俺は、遠慮なくスープを飲み干した。

 本当に暖かかった。こんなに温かいスープを今まで口にした事があっただろうか? いや。スープを温かいと思った事があっただろうか?

 俺は、空になたカップを両手で包みじっと見つめた。



「ねえ、ママ!」

 二階からバタバタと降りてくる足音に俺は顔を上げた。