「梨夏、そんな奴ほっとけ!」

 おっさんは、そう言うとスタスタと歩き出した。


「もう! いいから、いいから、いらっしゃい。 ほら、あなたも……」

 梨夏と呼ばれた女性が向けた目の先に、運転手の後輩が膝を抱え小さくなっていた。
 その声に、後輩は顔を上げて俺を見た。

 俺達は目を合わせると無言のまま立ち上がった。


「早く、早く! ほら、あそこよ」

 梨夏さんは、弾んだ声で海辺に建つ一軒の白い喫茶店を指さした。

 その、この状況にふさわしくない、天真爛漫の声に俺の足は動き出した。