欲しいって言ってもやらんわ!と、言いたいとこだが、そうもいかない。

 私だって、接客のプロのつもりだ。

 今までだって嫌な客はいたけど、きちんと接客してきた。

 そう思えば、何て事ないはずだ。


「はい」

 と、にこりと返した。


 私が、キッチンに下がると、常連客の男達がクッリとした目に声を掛けだした。

「名前は? 仕事は?」


「大内由梨華(おおうちゆりか)二十歳です。お父様の仕事を手伝っています」

 私は、黙々とキッチンに立ち仕事をする。

 消して、由梨華と言った彼女の方を見ている訳ではないが、ニコリとお客達に愛想を振っているのがわかる。


「大内……」

 ユウちゃんが、意味あり気に海里さんを見たが、海里さんは何も言わずトーストを口に運んだ。



「うわ。これで六百円安い! ホテルのビュッフェ三千円からなのに。海里さん、無理して食べなくても……」

 由梨華は、眉間に皺を寄せた。



「はあ―」

 みんなに聞こえないように、大きくため息をついた時だ。



「めっちゃ旨いけどな。俺はここのモーニングが一番だけどね」


 海里さんの言葉に、思わず洗い物の手が止まり、海里さんの方を見てしまった。


 美味しそうに、パクリとウインナーを口に入れた。


 なんだろう、涙が出そうだ……