海里さんは立ち上がると、私の横に並び海に目を向けた。


「カッコいいよな。なかなか、あんな風に波と一体になれないよ」


「うん…… でも、珍しいなぁ、パパが波に乗るなんて……」


「そうだな…… 前は良くこの時間、波に乗っていたよな。梨夏さんがよく、ここから見ていたよ」


「ママが?」

 私は、思わず海里さんの顔を見てしまった。


「ああ…… 覚えてないか?」

 海里さんは、海を見たまま言った。


「そう言えば……」


 ママが、毎朝ここに立ってパパを見ていた。

 どんな思いで見ていたのだろう。


 そして、パパは何故、今日波に乗ったのだろうか?

  昨日の話を聞いていなければ、何でも無い事で済んだのかもしれない……


「きっと、梨夏さんにカッコいいとこ見せたかったんだよ」


「ママに?」

 首を傾げた私の頭に、暖かい大きな手の平がポンとのった。



 しばらく海を見ていたが、海里さんがレジへと向い、私も慌てて後を追った。



 いつものように、海里さんを見送りに出ると、何かを思い出したように海里さんが振り向いた。



「明日から、大阪へ出張だから。週末は手伝いに来るって、おやじさんに伝えて」


「うん……」

 と肯きながら、なんだか、不安になる。


 手を上げた海里さんに、何か言わなきゃと気持ちが焦った。


「ねぇ!」


「どうした?」

 海里さんが、もう一度振り向いた。


「お土産、買ってきてよ」

 咄嗟に、そんな言葉が出てしまった。


「遊びじゃねぇんだぞ、時間があったらな」

「うん」

 私は、明るい声を上げた。


 走り去る海里さんの車を見送る。

 べつに、お土産が欲しかった訳じゃない。

 ただ、何か約束が欲しかった気がする。

 いつもとかわらない朝が、なんだか、少し違うように感じたからかもしれない?


 私は、見えなくなった海里さんの車の後を見たまま、ユウちゃん達が会計を待っていた事に気が付かなかった。


「かなちゃん、どうした?」

 ユウちゃんの声に我に返り、慌てて店の中に入った。


「お待たせしました」

 私は、急いで会計を済ませる。


「かなちゃん、海里、何か言ってた?」


「あっ。大阪に出張だって」



「ふーん。そうか……」

 少し間を開けて言った、ユウちゃんの声が意味あり気に聞こえた。

 きっと、ユウちゃんも何か知っているんだ。