「海里さん!」

 私は驚いて声を上げた。
 だが、もっと驚いたのは由梨華の方だろう。言葉も出せず、目を大きく見開いていた。


 海里さんは、私の頭をポンと叩き由梨華さんと私の前に屈みこんだ。


「俺は、たとえ奏海の存在が無くても大内さんと婚約はしない。俺は、会社の為に誰かと婚約はしない。それが、誰かの為になるとは思わないから」


「そんな……」

 由梨華は力無く下を向いた。


「大内さん、あなたは今まで、お父さんや大内と言う名に甘えて生きて来たんじゃないんですか? あなた自身の力で、何かを得てきましたか? たとえ、俺があなたと婚約しなくても、あなたのお父様は、自分の力でもう一度立て直す事が出来る人です。あなたも、いつまでも甘えていてはいけないのでは?」

 海里さんの丁寧な言葉に、あまり私が耳にしない、ビジネス的な物を感じた。


「海里さん……」

 由梨華は、泣きはらした顔を上げた。


「俺も、決して偉そうな事を言える人間では無いんです。俺もずっと、父や志賀グループの名に甘えて自由に生きて来た人間なので。でも、この店、そして奏海に出逢って、自分の力で得ようと思えたんです。守りたいもの、背負いたいものが出来たから……」

 海里さんは穏やかな口調だが、目は力強く凛々しかった。

 私は、この目を、この言葉を私は永遠に信じて行くのだと思う。


 由梨華さんの泣きはらした顔、高橋くんの悲しげな笑顔……


 みんな、感情のコントロール効かなくて苦しかったんだろう……

 どうしていいか分からず、人に感情をぶつけたり、時には嘘を付いて人を傷つけたり、
何も見えないまま、感情ばかりが先走ってしまったのだろう……
 
 それでも私は、志賀海里とう人と一緒に、これからの道を歩んで行きたい。