「由梨華さん……」

 私は何をどう答えて言いのか分からない。


「どうしてあなたなのよ! ただの喫茶店の店員じゃない? 私は大内財閥の娘よ! 私より、どうしてあなたに価値があるのよ? 教えてよ!」

 由梨華は、そのまま床に泣き崩れた。


「どういう事ですか?」

 私は、由梨華から少し離れた場所に立った。


「海里さん、私と婚約しなかったのよ! あなたの存在があるからでしょ? 言ったじゃない。あなたより、私の方が海里さんにとってメリットがあるって…… なのに、どうして離れてくれなかったのよ?」

 由梨華は、顔を上げキッと睨んできた。
 泣き崩れているのに、目からは憎しみが溢れている。


「私にとって、海里さんは大切な人なんです」

 私も、その目に負けないよう、しかっりと由梨華の目を見て言った。


「それが何? 私には、志賀グループが必要なのよ! あなただって、志賀グループを利用するつもりなんでしょ?」


「私には、志賀グループがどんな物か、正直分かりません…… でも、海里さんが背負っている物であるなら、私も一緒に背負って行きたいです。それだけです」


「そんなのきれいごとよ。志賀グループの力が無ければ、私は……」

 由梨華さんの言っている事は、この間と大分違う気がする。あれだけ自分が志賀グループに必要だと言っていたのに、今は志賀グループが自分に必要だと言っている。

 この人は、本当に海里さんの事を好きだったのだろうか?


 私は、由梨華さんの前に腰を下ろした。


「私は、志賀グループでなく、志賀海里という人が大切なんです」


「うっ― あなたが居なければ、私は海里さんと婚約できたのに!」

 由梨華さんは、私の肩を両手で強く掴んだ。


「それは違う!」

 ダイブショップのドアを開き、すっと入ってきたのは海里さんだった。