『日向ちゃん、お婆ちゃんが病院に呼んでるわ』
『おばさんと一緒に行こうか』
穏やかな口調で、私を不安にさせまいとおばさんが話しかけてくれる。
私はおばさんの車に乗り込み、近くの大きな病院に向かった。
『日向来たのね。ここにお母さんとお父さんが…』
そう言ってお婆ちゃんに教えられた扉の前。
この中に入ったら両親はいなくなってしまうんじゃないか。
さぁ、と言われお婆ちゃんと中に入ると、真っ白の部屋の中、両親が横たわっていた。
『お母さん?お父さん?』
目を閉じている両親は、もう目を覚まさないんじゃないか。
ふと思った時、
『……ひ、なた?』
聞こえたのはお母さんの声だった。
『お母さん!お母さん!』
薄っすらと目を開けたお母さんに駆け寄ると、ゆっくりと腕を動かし、私の髪を撫でた。
『日向、私達の娘に生まれて来てくれてありがとう』
『私、お母さんとお父さんの子供に生まれてよかったよ』
お母さんは起きているのに、その腕で私の髪を撫でてくれているのに、どんどん溢れる涙。
お母さんは私の言葉にフッと微笑むと、重たい瞼を閉じ、手をそっとベッドへとおろした。
『日向…』
『なに?お母さん、目を開けてよ』
必死にお母さんの手を握る。
お婆ちゃんは泣いていた。
『…ごめんね。愛しているわ』
『お母さん!目を開けて!…目を開けてよ!』
しばらくしても、もうお母さんの返事はなく、お婆ちゃんは静かにナースコールでお医者様を呼んだ。