「美杏、この子達は強い。私が保証するわよ」
口を挟んだのは、今さっき到着したらしいミカエル
隣にはラファエルがいて、心配げにこちらを見つめていた
天使の登場に怖気づきながらも、生徒達は道を開ける
周りの生徒に笑いかけながら、ミカエルたちはこちらに歩いてくる
「私も同じだよ、美杏。この子達は・・・・・・とても強い。神精魔法大戦の時に戦った魔導師よりもはるかに」
頷くラファエル
「私も、同感です。美杏、いい加減に、過保護をやめて、この子達を、連れていったら、どうです」
「あたしもそう思うな。感じ取れる魔力は凄まじいもん。そこらの中級天使に・・・・・・ううん、上級天使に匹敵するくらいだよ?」
ウリエルとガブリエルも、同意の声を上げた
「美杏・・・・・・最後はあなたよ。決めなさい」
こいつらを連れていくか
このまま置いていって、一人で神の元へ向かうか
「・・・・・・自分の命は、自分で守ることだな」
『!!!』
顔を俯かせながら言うと、声にならない叫が聞こえた
あたしは、知らねーからな
「やったぁ」
「ありがと、美杏!」
「俺たち、精一杯やるからな」
「お前に守られるかっつーの」
顔は見えないが、みんな笑顔のようだ
一刻も早くこの事件を解決しねぇとかねぇのに・・・・・・呑気なやつら
そう思いながら、顔を上げた瞬間
突如、少し離れた校舎の方に、魔力の気配を感じた
これは・・・・・・魔法陣か!
すっと目を閉じ、集中する
この規模・・・・・・間違いない
「おいミカエル」
「なにかしら?」
ラファエルは気づいていないらしく、柔らかな笑みであたしを見た
「・・・・・・ここ、任せられるか?」
「事後処理のこと?それなら大丈夫よ」
「いや、それじゃねぇ。今から現れる魔物の対処だ」
「っ?!また来るの?」
「ああ、しかも今からだ・・・・・・魔法陣は既に出現してんだからな」
「なんですって?」
あたしの会話は聞こえていたらしく、急に周りの視線がこちらに向いた
それは気にしねぇけど・・・・・・一刻を争う状態だ
「あいつめ・・・・・・どんだけミィザーを捕らえやがったんだ・・・・・・」
愚痴を零し、ミカエルに向き直る
察したようで、ミカエルは首を縦に振った
「ええ、任せてちょうだい。みんな、行けるわね?」
「「「もちろん」」」
四大天使全員が頷いた
生徒達も、さっと顔を引き締める
さすが・・・・・・学校のレベルが高いだけあるな
「あたしらは神界に向かうぞ」
「えっ?神界・・・・・・って、神様が住むあそこ?!」
「当たり前だ!他にどこがあんだよ!神がいるとこっつったらそこしかねぇだろ!」
「は、はいぃぃぃぃ」
あたしの語気の強い言葉に、背中をびしっと真っ直ぐにして直立する千聖
ったく・・・・・・
「あとは任せてね、美杏」
「思う存分戦ってきてね」
「間違っても・・・・・・死なないで」
「私たちに、任せろ、です」
「ああ・・・・・・頼んだ」
頼りがいのある四大天使と頷き合う
そして、四人はそれぞれ翼を広げ、魔法陣のある方へと向かった
「あたしたちは行くぞ」
「うんっ」
「はーい」
「いよいよか・・・・・・」
「おう」
「私ももちろん行くわよ、美杏」
「ああ、わかってる」
千聖、春、翔太、零、そしてリーナがあたしの言葉に答える
いよいよだ
神精魔法大戦以来の、大戦の開幕
相手は神
こっちは、頼れる4人の魔法使い─────いや、魔導師と
長い付き合いで、気心の知れた大切な精霊
そして、あたし
勝てる、いや
ぜってー、勝つ
「いくぞ・・・・・・」
あたしは一度、息を吐ききり
そして、静かに吸い込む
魔法界の空気は・・・・・・もう一度、吸えるだろうか
そんな考えが頭の片隅をよぎる中、唱える
「万物の象徴よ、四の元素の下、降臨せよ。神界へと続きし金色の扉よ、顕現し、我が願う者へ合わすべくして開け!」
強い光が辺りに溢れ、飲み込む
そして、目の前に現れた金色の扉が開き、あたしたちを迎え─────
神界へと、誘った
「っっ・・・・・・」
光に目がくらみ、少しの間呆然としていた
気づいた頃、あたしたちは雲におおわれた清らかな世界────神界へと来ていた
以前来た時よりも、穢れていたが
真っ白な雲は無く、あたりには瘴気が立ち込め、黒いモヤで埋めつくされていた
・・・・・・こんなところじゃ、天使たちは瘴気にやられて力が下がってしまう
間違っても、連れてこなくてよかった
一方、四人とリーナはというと
魔法耐性の弱い春が苦しそうにうなされている
ちなみに、今気絶して寝ている最中だ
呑気なやつ・・・・・・他のやつらはなんともなさそうに寝てやがるな
まあ、それはある意味いいことだが
「しゃーねーな」
このまま春を放って置く訳にも行かねぇ
つーことで
「魔力結晶・・・・・・っと」
倒れている春に近づき、すっと手をかざして唱えた
光がほとばしり、春を包み込む
そして光を身体中にうっすらと纏った瞬間、春の呼吸は落ち着いた
これで瘴気に触れることはないだろ・・・・・・大丈夫なはずだ
魔法耐性が低いのは春だけか・・・・・・
「しっかし・・・・・・どうしてこんな穢れてんだ?」
あたりを見回しながら呟く
以前来た時は、たくさんの神々が行き交い、楽しそうに暮らす、神界だった
しかし今は、瘴気がたちこめ、神の姿は一切なく、それどころか人気も感じないほど
おかしい・・・・・・なんでこんなに穢れた?
一体、どうして・・・・・・
「ん・・・・・・」
小さなうめき声が聞こえた
無駄に静かだからか、やけに響く
振り向くと、顔をゆがめながら目を開けた人がいた
零・・・・・・
「ったー・・・・・・なんだ、ここ」
頭を押さえながらゆっくりと起き上がる
どうやら・・・・・・少なからず転移の時に魔力衝撃を受けたらしい
反発力はどうにもできねぇから仕方ないんだがな
召喚の時の反発力はごく微小だが・・・・・・転移はかなり大きい
召喚は四属性の付与だが、転移は四属性を媒介にしている
その分使う力が大きすぎて、容量に入りきらない分が反発して・・・・・・って、これどうでもいい
今は、神との戦いに集中しねぇとな
「大丈夫か?」
「ああ・・・・・・で、ここが神界か」
「そうだ。まあ、今は瘴気だらけだけだが、本来は清らかないいところだ。神が集まるところだしな」
「じゃ、なんでこんなに瘴気があんだよ」
んな訝しげな顔されてもな?
あたしも今来たばっかなんだから知るわけねぇだろ
「知らね。まああるとすれば・・・・・・ミィザーだな」
「ミィザー?それって、あの魔物のことか?あいつが穢れさせたと?」
「・・・・・・お前らは知らねぇと思うが、ミィザーは闇精霊だぞ」
「は?!」
闇精霊はかなりメジャーだが、姿は神が小動物に見せかけているからな
その反応は尤もだ
しかも、ミィザーと闇精霊は別物と考えられてるし・・・・・・仕方ない
「つーことは、この瘴気はミィザー・・・・・・闇精霊のせいだと?」
「いくら強力な魔物でも、清らかな神界をここまで穢れさせることは出来ねぇ。でも魔物を作りだすミィザーの力は計り知れないからな」
「なるほどな・・・・・・」
「神があんだけ魔物を寄越したのも、もしかしたらここで魔物を作った可能性がある」
「んなこと、できるのか?」
「やろうと思えばな」
説明している時、後ろから視線を感じた
神か?!と思い、急いで振り返ったが
そこには、ニヤニヤと顔をにやけさせながらこちらを見る四人の姿が
・・・・・・お前ら、目が覚めたなら早く言えよ
「夫婦の会話は終わりましたー?」
「「夫婦じゃねぇよ!」」
速攻で否定
いや、こいつと夫婦とか死んでも嫌だわ
「仲がよろしいですねー」
「春・・・・・・お前いい加減にしろよ?」
「ひぃっ・・・・・・」
睨みをきかせると、肩をぶるっと震わせる春
これに懲りたら、もうそれ言うのはやめろよ?
「っていうか、ここ神界?」
「ええ、そうよ」
「らしいな・・・・・・初めて来たわ」
「え、翔太、逆に初めてじゃないほうが怖い」
「まーそうだな」
うんうんと頷くやつらはさておき
ここからどう動くかだ
あたし達が求めているのは、数多いる神々の中の頂点に君臨する神
元々はアイテールが鎮座していたが、その時代から変わりに変わって今に落ち着くわけだが
名前は確か・・・・・・なんだったか
忘れたな、最後にあったの結構前だし、それに数える程しかあってねぇ
親交はあるものの、会議とかなんとか気難しいやつの時ばっかりだからな
会う機会がまず少ない
天使達とは多少の交流はあるが
まあ名前の忘れた神より、他の神─────イーリスとかアレースとかなら会ったことあるけどな
会ったっつーか、たまに私の屋敷に来てた
たまにな、200年に一度くらいのペース
忘れた頃にきやがる
しかも来たことあるの、二、三回だし
ま、それは置いといて
「今から神を探しに行く・・・・・・っつーわけで、三組にわかれるぞ」
「三組?どうして?」
「どこに神がいるか分からねぇんだ。最悪考えられるのは、まとめて動いて全滅だからな。二人一組になって動く」
「ほぉぉ・・・・・・なるほど」
「それがいいわね。とすると・・・・・・どういう風に分かれるのかしら」
リーナが私に訊ねた
まず、わかれるという観点から言うと、もし発見した際の通信が必要だ
通信が可能な属性は、風
風は自分の声を風に乗せて他人に届けることができる
風を持っているのは、あたし、千聖、そして零
決まったな
「あたしとリーナ、千聖と春、零と翔太にわかれてくれ」
「?なんで?」
「風属性を一組に1人ずついれてる。通信できるのは風属性だけだからな」
「・・・・・・すげぇな」
「うん、すごいと思う」
なんでこいつら、妙に納得してんだ?
別に気にすることじゃねぇけどさ・・・・・・
「よし、いくぞ」
「「「「「もちろん!」」」」」
「誰もいないわね」
「だな・・・・・・」
あたしとリーナは精霊の羽を使って空中を翔んでいた
ただ、瘴気に囲まれているため、低空飛行な訳だが
あまりにも高いところから見ると、全く地上が見えないのだ
「あたしの魔力を検知したなら、イーリスあたりが飛んできそうだが」
「まあ、美杏の話を聞く限り、イーリス様は飛んできそうね」
「だろ?あいつはああ見てて相当な使い手だ。なのにあたしの魔力やあいつらの魔力を検知できないのは変だな」
思考をめぐらせながら、ふと下を見た
・・・・・・人影?
それにあのシルエット・・・・・・もしや
「イーリス?」
小さな声で呟いたと思ったが、あたし達の他に周りに人はいない
そのため、よく響いたのだろう
うっすらと浮かぶ人のシルエットが、ゆっくりと動いた
「見えねえ・・・・・・よっ」
即座に魔力に風の力を込め、吹かせる
瘴気がゆらゆらと動き、切れ目を作った
そしてそこから見えたのは、懐かしい神の姿
「美杏・・・・・ふぇぇ」
目に涙をため、泣きじゃくるイーリスだった
姿は幼い少女だが、正真正銘、虹の神イーリスである
角度次第で様々な色に見える「七色の髪」を持つ
肩にかかるくらいの長さだ
そして神という証明になる、レースを纏った純白のドレスを着ていた
まあ、ドレスという程豪華じゃない。パニエを着ているが、ドレスとワンピースとの間ぐらいだ
って、だからそれどうでもいいっつーの!
「イーリス・・・・・・!」
「美杏・・・・・・」
さっと地上に降りて、あたしはイーリスを抱きしめた
ふわりといい香りが鼻腔をつく
暖かく、小さな体を震わせ、イーリスはあたしの胸に顔を押し付けて泣いた
「・・・・・・大丈夫?」
リーナもあたしの隣におり、心配げにイーリスの頭を撫でた
「ふえっ・・・・・・」
小さな嗚咽を漏らしながら、イーリスは泣き続けた
あたしたちは顔を見合わせ、イーリスが落ち着くまでひたすら待ち続けた────
「─────で、神がミィザーを大量に連れてきたおかげで神界が穢れ、神の力をもってしても抑えきれず、弱い神は消滅したと」
「うん・・・・・・」
数分後
ようやく落ち着いたイーリスに話を聞いている最中である
なんともまぁ・・・・・・どんだけご乱心なわけか
「イーリス様はなんとか助かったけれど、魔物の姿を見て逃げ出したってことね」
頬に手を当てながら、納得したように言うリーナ
まあ、誰でもあの魔物の姿見りゃ逃げるわな
異形というに相応しいあの体
あれで逃げねぇ方がおかしい・・・・・・
「それで・・・・・・私、みんなをおいて逃げちゃったの」
涙がうっすらと浮かび、その度に目の縁を拭うイーリス
かなり罪悪感を感じているらしい
「・・・・・・神は今、どこにいるか知ってるか?」
「神・・・・・・?もしかして、アイラ様?」
「アイラ・・・・・・ああ、そいつだ!アイラだアイラ」
アイテールの名前にとらわれていたが、今ようやく思い出した
アイラ様
たしか精霊女王の・・・・・・先々代の女王だったな
まあ要するに、今から軽く5000年くらい前の女王様ってわけだ
位置的にはあたしの祖母に当たるな
そんとき、多分魔法界は誕生1500年くらいだろうな
神精魔法大戦は、その頃の出来事なのか・・・・・・
それなら、召喚術が発達してなかったってのも頷ける
天使達やアイラは、自主的に行ったんだからな