「…え?2人が梓に?」
「そう、今じゃ想像もつかないでしょ?でも結果は梓の完全なるスルー。俺と琉聖が何度挑んでも避けるだけでそれが余計に俺達をムカつかせててさ、まぁ簡単に言えば嫌ってた。でもある日事件が起きたんだ」
「………事件…」
「シルバーナイトの下っ端達が次々に違うチームの奴らに狙われた。もちろん俺達も当時は一番下だったから死ぬんじゃないかってくらいボロボロにされて。でも梓は倒れなかった。何十人もの奴らがたった数人をリンチ状態にしてるっていうのに、あいつはどんなに殴られても蹴られても決して倒れなかったんだ」
息を飲む。聞いただけでも痛々しくて想像すらできなかった。
「だから俺言ったんだ、もうやめろって。死んじまうぞって。そしたらアイツ何て言ったと思う?」
クスリとどこか楽しそうに笑った悠真は、その時を思い出すかのようにゆっくりと瞼を閉じていく。
「今喧嘩しねェで、いつすんだよ。仲間守るためのチームだろうが、倒れてる暇なんてねェんだよ。って」
優しげに、穏やかに目を細める悠真にとって、その梓の一言は一体どれほどの衝撃だったのだろう。どれほどの価値のある言葉だったのだろう。
「その時初めて分かった。梓は俺達とは違う。自分の為やくだらない事の為じゃない。誰かのためにだけ拳を振るそんな男だったんだって。そしてコイツはいつか頂点に立つ男だって。ボロボロでも倒れる事のなかったあの背中を見てそう思ったんだ」