「面白い事を言うな」



この人は梓と似ている。



掴めそうなのに、掴めなくて……

近いようで、すごく遠い……



「まるで、何かに怯えてるみたいです」


隣に座る彼を真っ直ぐに見つめながらそう言うと、新はほんの一瞬だけ動揺を見せたけれど、すぐにその表情を元に戻した。


穏やかな口調も、余裕気のある表情も。
それは一定の距離を取るための武器にしか見えなくて…


だからか、黒雅の総長である怖いはずの彼を心から怖がるなんて出来なかった。



「俺は族の頭だ、なのに怯えてる?」


「…暴走族の総長とかトップだとか、そんなの関係無いです。…強いと怯えちゃいけないんですか?だから隠すんですか」


皆んなに強いと思われている人は、怯える事も弱味を見せる事も許されないんだろうか。



だからこの人は、そうやって隠しているんだろうか。隠し続けて来たのだろうか。



「君は変わった女だ。俺にそんな事を言った奴は初めてだよ」



やはり穏やか気にそう言った新は、目を細めるとクスリと楽しそうに笑った。



それは今まで見ていた表情とは違くて、本当に一瞬心から微笑んでいるようにそう見えたんだ。