彼は目を細めるようにして弧を描くと、そのまま妖美に笑って再び歩き出した。
マンション前には黒塗りの車が停めてあり、私達が近付いたのに気がついた運転手が後部座のドアを開けると私を中へと入れてから新が乗り込んでくる。
シルバーナイトの車とは違って、やけに緊張したような重苦しい空気が車内を包み込んでいた。
「家、住所は?」
「駅前近くのタワーマンション辺りです」
「あぁ、あそこね。了解」
新は場所をすぐさま理解したようで、行き先を運転手へ告げると車は滑らかに走り出した。
車外には雨がボディーへと打ち付ける音が響き、外の景色は雫で反射して良く見えない。
音楽やラジオの付いていないこの空間はまさに地獄のような気まずさで、雨の音がせめてもの救いだった。
今は一体何時なんだろう、荷物も持ってきていないから時間さえ確認出来ない。
「家の人は大丈夫なのか?」