羞恥心よりもやけに頭は冷静で…黒雅のトップの家にいるというのに何もされていない状況が少しだけ私の心に余裕を持たせてくれる。


だからか、何の躊躇もなく少しだけ開いていた扉に手をかけるとそのままゆっくりと開いた。



そして、その扉の音に気が付いたのかソファーに座っていた新がこちらへと振り返り、その前で立っていた黒縁眼鏡の男が次に私を視界に入れる。



「うるさくて起きたか」



新はそう言い立ち上がると、私の前まで歩いて来て額に手を置いた。



「さっきより顔色はマシだな、まだ熱いけど」



そんな新の瞳はやっぱりどこか冷たくて、それなのに少し優し気な声を出す。



「帰ります」


「そう急ぐなよ」


「熱が下がったら帰してくれるって言いましたよね」


「まだ下がってないだろ」


「もう平気です」



ここに長く居るわけにはいかない。
何をされるかわからないし…皆んなも私を絶対に探してる。



もし私がここに居ると知ったら、琉聖達はきっと黒雅と戦う事になる…そんなわけにはいかない。




「それに、ここにいる理由はありません」