「分かったら失せろ」



逃げ出すようにして男は慌てて私から手を離すと、そのままもの凄い勢いでその場を後にした。



新……

黒雅のトップ……



「君、梓のお気に入りだろ。何でこんなところにいるんだ」



さっきの地の這うような声とは違い、以前見たときのように穏やかで余裕気に話し出した目の前のこの人は、そんな話し方とは裏腹に冷めたようにとても冷たい表情で私を見下ろす。



特に答える事もせず、そんな彼をジッと見つめたまま立ち尽くしていると掴まれていた腕をそっと離した。



甘い雰囲気の顔立ちからは想像もつかないような、深くて暗い独特な空気。



「おい、聞いてるか?」


「はい」


「やっと喋った」



声は優し気に聞こえるのに、冷え切った瞳が……どこか壁を感じるその視線が少し怖い。



「で、こんな所で一人雨に濡れてる理由は」


「とくに…」