ポタポタと水が滴る。



髪を通って頬を通って首筋へと抜けていく。



いつの間に倉庫を出たのか分からない、無意識で…気が付いたらあの場所から逃げ出していた。


右手には佑衣へ渡すはずだったノートが握られている。何これ…凄くマヌケだ。



空は分厚い雲が覆い、そして雫達を落とす。まるで私の心の中を読んでるみたいにそれは見えて…もう涙の出なくなった私の代わりに泣いてくれているような気さえする。



凄く寒いはずなのに、身体は不思議と震えない。
それどころか何にも感じない人形みたいだ。



「君、どうしたの?」



いきなりスッと雨が止んだかと思うと、頭上から話しかけられそちらへとゆっくり振り返った。



そこにいるのは20代前半くらいの男。
雨が止んだのはこの男が私に傘を差し出したから。



「すごい濡れてるけど平気?」



男は口軽にそう言うと笑顔を向けて見せた。



「平気…」



「平気そうには見えないけど。うちに来ない?すぐそこなんだ」



優しい口調とは裏腹に、いきなり掴まれた腕。その拍子に持っていたノートが水音をたてて道路へと落ちた。