梓がそれ以上話し出すよりも前に、そっと彼の胸から顔を上げた。
溢れ出す涙を無理矢理こらえてそれを飲み込むと、小さく笑って見せる。
「梓…」
一歩下がり梓の表情を見つめると、その顔は切なく儚げで…シルバーナイトの総長だということは忘れてしまいそうになるほどだ。
あんなにも強くて誰しもが憧れる梓。
そんな彼を今悲しい表情にさせているのは紛れもなく私なんだと……
「莉愛、俺は…」梓がそう言いかけた所で口の前に手を置いて彼の口をふさいだ。
「梓…今まで困らせてごめんね、いつも優しくしてくれてありがとう」
まるで何が弾けたみたいに想いが溢れ出してしまいそうで、1度だけ目を細め笑うと唖然と立ち尽くす梓に背を向け歩き出した。
部屋を出た頃にはやっぱり涙が溢れでたけれど…どうする事もできない。
そのまま小走りで一階にあるトイレへと向かい、落ち着きをはらうかのように水で顔を何度も流した。