少しだけ緊張しながらプレハブへと繋がる階段を上る。



ギィーっと少し古びた音を上げ扉を開けると、中にいると思っていた人物達はいなくて、梓一人がソファーへと座っていた。



ドクドクと鳴り出す心臓。そして部屋に入ると気がつく。梓は瞳を閉じて腕を組んだまま眠っている。



なるべく物音を立てないように歩き、スクールバックからノートを取り出すとそのまま立ち上がり扉へと向かう。


だけどその時視界の隅に入った梓の寝顔に、思わず足を止めてしまった。



梓と二人っきりなんて、いつぶりだろう。


声もしばらく聞いてないような気がする。顔さえまともに見てない。



気づくと私はゆっくりと梓へと歩き出していて、その少し手前で立ち止まり手を伸ばした。



綺麗な白銀の髪、キメの細かい肌、伏せられた切れ長な瞳。こんな近くで見れるのはこの先無いかもしれない。



梓の眠っている頬に触れる少し前、いつの間にか触れようとしていた自分の行動にハッと我に帰りその手を止める。



「……私、何してるんだろう…」



ポツリとそんな小声が部屋にやけに響いて、そして前に出していた手をそのまま元へと戻した。



もう触れる事は出来ないのに……

触れてもらう事もないのに……