「着いたぞ」
「…家?」
琉聖に連れて来られた先は、クリーム色の可愛らしい一軒家。
「俺ん家」
どうやら私は琉聖の家に連れて来られたらしい。
「まあ俺の家っていうより、伊吹の家か」
琉聖の家が……伊吹さんの家…?どういう意味?
「入れよ」
木製のドアはドアノブもお洒落な作りになっていて、琉聖や伊吹さんの家だなんて想像もつかない。
言われた通り中へと入ると、これまた中までもがお洒落で可愛らしかった。
ウッド調のデザインに赤いレンガや暖色系の電気。
まるでモデルルームみたいな室内。
琉聖に手を引かれたままリビングに入ると、やっぱりリビングも素敵なデザインで、思わず見とれてしまう。
「ここ座れ」
言われた通りベージュのソファーへと腰をかけると、保冷剤をタオルで包んだ琉聖が戻ってきてそれを私に手渡す。
「ほら、冷やせ」
「……ありがとう」
「お前、今日からしばらくここに泊まれよ」
「……泊まる…?」
いきなりの琉聖からの提案。だけど私の隣に座っている琉聖は当たり前かのように平然とそう答える。
「今お前のことほっといたら、飯も食わねェ風呂も入らねェ睡眠もとらねェ。そんな気がする」
いつもの意地悪な口調とは裏腹に、真剣に真面目な顔をして言う琉聖。
「でも…」
「この家は伊吹の姉さんの家なんだ。でも結婚して海外に行ったらしくて今は伊吹が住んでる。そんでそこに俺も住まわせてもらってんの」
そうだったんだ。全然知らなかった。
私こう考えると琉聖の事何にも知らない。
他のみんなの事も……
「まぁ、お前が嫌だって言っても強制的に泊まらせるけどな」
保冷剤を手に持ったまま、琉聖の方を見ていると、私が持っていた保冷剤を取ってそれをそっと私の目元へと当ててくれた。
「……ごめんね…」
「何が」
「いつも迷惑かけて…」
ポタリっと、一粒…また一粒と琉聖の貸してくれた上着にシミを作っていく。
あれだけ泣いたのに…まだ涙は枯れていない。
この気持ちが枯れ果てるまで…涙が止まる事はないのかな。
「お前ってさ、馬鹿だよ」
「……ば…か?」
「あぁ、バカ。しょーもないくらいバカ」
私が通っている学校はここら辺で知らない人がいないほどの名門校だ。だけど…馬鹿らしい私…でも何でそう言われたのか自分じゃ分からない。それって確かに馬鹿なのかもしれない。
「俺のこと、何だと思ってんだ」
「………」
「お前が何で一人で暮らしてんのか、何でいつもどっか寂しそうな顔してんのか、俺はしらねェ」
「………」
「お前の心の中も、本心も知らねェ。けど、お前が話したくないならそれで良いと思ってた。それを話さないからって俺達の何かが変わるわけじゃない」
「……琉聖…」
「その意味わかるか?」
「…意味?」
「あぁ、お前はもう一人なんかじゃない。一人だなんて思うな」
「………ッ…」
「頼れよ、一人で抱え込んでんじゃねェ」
「……ぅうっ…」
いつの間にか眠りに落ちていた。
ゆっくりと、優しく、琉聖が頭を撫でてくれていたような気がする。
あの後、結局私が今日一体何があったのか琉聖に言う事は無かった。
それでもきっと彼は、言わなくても分かっていたと思う。
けど、何があったのか私が言わなかったのは…琉聖が言ってくれた言葉を理解していないからじゃない。
あの時琉聖が私を見つけてくれただけで、側に居てくれただけで…それが私の支えになっていたから。
もうあの辛い気持ちを、ワザワザ言う必要はないとそう思ったから。
ゆっくりと瞳を開いた。
いつの間にかソファーで横になっていた私には、紺色の毛布がかけられていて。
ゆっくりと身体を動かすと、そこにいる人物に気が付く。
床に座りソファーへもたれながら眠っている琉聖。
窓の外を見つめると、すっかりオレンジ色に染まった空が夕方だということが分かる。
そっとソファーから降りると、自分にかかっていた毛布を琉聖にかけた。
やけにお洒落なリビングを辺り一面見渡していると、木製の扉が丁度ゆっくりと開いていくところで
「莉愛ちゃん、起きたんだね」
にっこりといつも通り微笑んでいる悠真がこそには立っていた。
「うん、今起きた」
悠真がリビングに入って来たのと同時に見えた背後の人影。
思わずそのシルエットにビクッと身体を強張らせる。
だけど、それは私の想像していた人物ではなく
「こんにちは、久しぶり」
悠真の後ろにいたのは妹のひなのさんだった。
「…こんにちは」
ひなのさんはこの間会った時の制服とは違い私服のワンピースでとても可愛いらしい。さすが悠真の妹さんだ。
それに比べて私は…デニムスカートに琉聖が貸してくれたダボダボの上着。
目は腫れぼったくあまりよく開かない。
まさに最悪のコンディション。
それにしても、どうしてここに悠真とひなのさんが……?
ソファーの前でボーっと立ったっていると、軽く手を下にクイッと引かれ「ん…、お前いつ起きた」と下の方から琉聖の声が聞こえてきた。
その声は寝起きだからかいつもよりも低くどこか色っぽくて、眠たそうに私を見上げている。
「さっき…」
「何だよ、起こせよ」
そんな琉聖はまだ悠真とひなのさんに気が付いて居ないのか、かったるそうにゆっくりと立ち上がった。
「あー首痛くなった。つーか莉愛 顔ヤバイぞ」
「え…顔?」
「めっちゃ不細工」
めっちゃ不細工。めっちゃって…そんなにヤバイんだ。ヤバイような気はしてたけど、そこまでなんだ。
「ほら、ここ。すげー腫れてる」
私の瞼をそっと琉聖が触ろうとした時
「琉聖!女の子に不細工とか失礼だよ!!」
部屋に大きく響き渡った声。それに反応した琉聖が、私に触れようとしていた手をゆっくりと元に戻していく。
「あ?何でお前らいんの」
やっと悠真とひなのさんに気がついたらしい琉聖が、かったるそうにそちらへと顔を向けた。
「さっきからいたけど、お前が気がつかなかっただけだろ」
悠真は呆れたようにそういうと、手慣れたように台所の冷蔵庫を開け、そこからミネラルウォーターを取り出し私に手渡してくれる。
「いや、何で来たんだよ」
「心配だったから。はい、莉愛ちゃんお水飲みな」
「ありがとう」
悠真にもらったお水を一口飲むとやけにノドがスッとして、少しだけ重苦しかった心がスッキリとしてくる。
「じゃあアイツは何でいんだよ」
琉聖が視線だけでひなのさんを指す。
「私は、服を持って来るように言われたの」
「服?」
「あぁ、莉愛ちゃん今日泊まるんだろ?だからひなのに買って来るように頼んだんだよ。俺や伊吹じゃ分からないしな」
そうだったの……何だかそれって物凄く申し訳ない……
「あぁ、なるほど。サンキュ」
琉聖がそう言ってひなのさんを見ると、ひなのさんは驚いたような表情をした後、少しだけ頬を赤らめてそっぽを向いた。
「あの…ひなのさん、ありがとうございます」
「いえいえ!」
私泊まるの確定してたんだ。というか…お金払わないと。
「あ、鞄…無いんだった」そうボソリと呟くと、隣にいる琉聖が「どうした?」と私に聞き返してきて
「鞄 昨日倉庫に置いてきた」
「あぁ、それならあそこにある」
琉聖の指差す方には、ダイニングテーブルのイスに引っ掛けられている私の鞄。
琉聖持ってきてくれてたんだ。
その鞄をゴソゴソとあさりお財布を取り出すと、それを見ていた悠真が私にニッコリと微笑む。
「お金ならいらないからね」
「いやいや、払うよ」
「大丈夫だよ、気にしないで」
「……でも」
「本当に平気だから」
悠真は私の持っていたお財布をそっと押すと、ひなのさんから受け取った紙袋を私に手渡してくれる。
「…ありがとう」