「いや、今はいい」



それだけで十分だと思った。




いつもあの子の所へ行ってしまう梓の背中を、私は追いかける事なんか出来なくて……



ずっとただ見ているだけだった。



そんな梓が、今私を優先してくれたこと。



私を一番にしてくれたこと。



それだけで十分だとそう思ったんだ。



そんなのおかしいって、思う人もいるかもしれない。だけど今の私にはこれが精一杯で……




「出て、私は大丈夫だから」




本当は大丈夫なんかじゃない。大丈夫なわけがない。



「莉愛」



梓の声も身体も温もりも……
全部全部私のだったらいいのに……



だけど、きっと今こう言わないと私はずっと後悔する。偽善だろうか良い子ちゃんだろうが……きっと後悔するから。