梓は一瞬目を見開いた後、私を引き寄せるようにしてギュッと強く抱きしめた。




「莉愛」



耳元で私の名前を呼ぶ梓の声は、少しだけ震えているような気がして…低く耳の中へとこだましていく。



この温もりに包まれているだけで、それだけで良いと思えてしまう私は馬鹿なのだろうか。




だから、少し遠くの方で先程からずっと鳴っている梓の携帯も……今は全部全部どうでもよく思えた。



だけど、世の中はそんな上手くいく事ばかりじゃないんだ。



携帯の音がなるたび、梓の身体がかすかに反応しているのが分かる。



私を見つめている瞳が切なげに揺れているのだって気が付いてる。



私は抱きしめられていた身体を少しだけ離し、梓の胸に両手を当てるとそっと距離を取った。



「……携帯、鳴ってるよ」



重苦しく口から出てきた言葉はそんな簡単な言葉なのに……私の心に穴をポッカリと開けていく。



「あぁ…」



もちろん、私が言わなくても梓だって電話が鳴っている事に気が付いていたと思う。



「…出て、良いよ…」



誰からの電話なのか…そんなの聞かなくても分かる。



梓の表情がそれを告げているから。