梓が何を考えているのかなんて、聞かなくてもすぐに分かった。
分かりたくて分かったんじゃない。
だってあの時と同じ顔をしていたから……
黒雅が倉庫に来て私が怪我をしたとき…今と同じような顔をして梓は部屋を出て行った。
そして、マンションの前にあの人がいた時も梓はこんな表情で私を見つめてきた。
あの人の事を考えているんだと…自然とそう自分の頭が勝手に理解してしまっていて……そんな事考えもせず幸せに浸れない自分を馬鹿だと思った。
一体あの子と梓の間に何かあったのかは分からないけれど…次はそれを見ないようにして梓の背中へと手を回した。
梓が私に向けてくれる優しい瞳は嘘じゃないと…私を抱きしめてくれる温もりは偽物なんかじゃないと…何故かそう思えたから。
「寝るか?」
そういつもよりも優しい声色で私に話しかけてくる梓は、さきほどの表情とは違い柔らかく笑みを見せていて…普段倉庫では無表情であまり喋らないしこんな優しい顔もしない。だけど二人の時はすごく優しげで、そう思うと…やっぱり梓の事で胸がいっぱいになった。
あの子の前ではどんな表情を見せるの…?
どんな声で話すの…?
そんな事を考えるとキリがなくて……
「…うん」
フワリとかけてくれた布団へと顔を埋めると、梓は私を軽く抱きしめるようにして身体を引き寄せた。