「あの2人って、なんやかんや仲いいみたいだね」
「奇遇だね恵那。私も同じこと思ってた」
「やっぱり?」
私たちはお互い顔を見合わせ、クスリと笑みを零した。
「遊にさっき話したけど、やっぱ4人で遊ぶことになりそう。一応、この作戦は無謀だって説明はしたけど、ちゃんと理解してるのかも分かんないし」
「そっか、流石遊君としか言いようがないね」
まあ、何となくもう無理だろうなってことは察してたけど。
「それに、なんでか知らないけど、遊ってばすごく行く気満々だったんだよね」
「そうなの?そういえば、恭哉君も行く気みたいだった」
「へー意外だね。この際、嫌われるように行動してみたら?」
「…確かに!美冬!それいい考えじゃん!」
思いっきり変なことして、思いっきり嫌われるように仕向ければいいんだ!
この状況を逆手にとって、自分にプラスになるようにすればいいんだ!
流石に学校でそんなことやると、周りの視線が痛いけど、4人で遊ぶだけならみんな分かってくれてるし、恭哉君に上手く嫌われるように出来るよね。
「私、嫌われるように頑張るっ!」
意を決した声で宣言をする。
「具体的には何するの?」
「うーん…そう言われると困るな~…」
今まで生きてきた中で、嫌われるように努力したことなんてないからな~…
具体的に、と聞かれると困ってしまう。
どうしたら嫌われるんだろう。
何をしたら嫌ってくれるんだろう。
うーん…。
眉間にシワを寄せながら、グルグルと思考がループする。
「まっ、成り行きでなんとかなるでしょ!」
考えたところで分かんないし。
そもそも恭哉君に好かれたいなんて、一度も思ったことないし。
いつも通りにしてれば大丈夫だよね?
「成り行き、ね…私は恵那のこと見守ってるよ」
「なんかごめんね、私なんかに付き合わせちゃって」
すると美冬は優しく微笑み、私の頭をポンッと撫でた。
「気にしなくていいよ。恵那のためだから」
「美冬…!ありがとう…!私、一生美冬についていくよ!」
感激のあまり抱き着こうと、伸ばした腕を見事に交わされる。
「ははっ、大袈裟すぎ」
そう言って、クールに笑う美冬に惚れ直したのはこれで何回目だろうか。
###♡
「そこを退いてよ!」
「嫌だって、言ったら?」
「…強行突破してやる!」
「やれるもんならどうぞ」
ただ今私は、ピンチに陥っていた。
事の発端は10分ほど前に遡る。
放課後、美冬を部活へ見送り、掃除当番の任務を熟すため、教室へと戻ってきていた。
掃除当番は私を含め4人で行うのだが、私以外の3人は用事があると言って、先に帰ってしまったのだ。
仕方なく1人で教室の掃除をしていると、そこに恭哉君が現れたのだ。
そして今に至る訳なんだけど…
「もー!恭哉君のバカッ!」
退く気配のない恭哉君に、幼稚な言葉で対抗するしかなかった。
突然現れたかと思ったら、私の掃除の邪魔をしてくるし、一体何がしたいんだか!
邪魔するくらいなら、早く帰ってよねっ!
プンプンッと怒った様子で、箒でゴミを掃く。
それでも何故か気になってしまい、チラッと視線を向けてみる。
恭哉君はゴミ箱の近くに座り、呑気にスマホを構っていた。
…誰かと待ち合わせしてるのかな?
じゃないと、こんな時間に教室にいないよね。
…まっ、私には関係ないことだし、気にしずさっさと掃除を終わらせちゃおっと。
視線を床へと落とし、掃除に戻る。
「掃除当番って4人じゃねーの?」
声に反応して振りかえると、スマホを片手に恭哉君がこちらを見ていた。
「そうだよ?」
何を当たり前のこと聞いてるんだか。
「他の奴らは?」
「今日はみんな用事があるらしいから、先に帰ったよ」
箒でゴミを集めながらそんな会話をする。
なんか、恭哉君と日常会話を話すのってちょっとヘンな感じ。
一応クラスメイトなんだし、日常会話をするくらい、当たり前のことなんだけどさ。
やっぱりあんなことがあった後だから、変に意識するっていうか緊張するし。
…当の本人にそんな様子はないけど。
「ふーん…お人好し過ぎだろ」
「そうかな~、みんな用事あるなら仕方ないし。誰かがやらないといけないからね」
塵取りにゴミを乗せ終え、ゴミ箱へと向かう。
すると近くに座っていた恭哉君が、何か言いたげな目で私を見ていた。
「なに?」
「だから、それをお人好しって言うんだよ」
と言って、最後に口パクで「バーカ」と言ったのが分かった。
バッ、バカッ…!?
今の絶対、バカって言ったよね!?
呆気にとられていると、恭哉君はプイッとそっぽを向いた。
「そういうのイラッてすんだよ」
そして苦々しい口ぶりでそう言ったのだ。
「なにそれ!別に恭哉君に迷惑かけてないからいいじゃん」
なんで恭哉君がイライラするんだろう。
恭哉君には全く関係ないことなのに。
ほんと、何考えてるのか理解不能だ。
「当たり前だろ。俺に迷惑かけるなんて100年早いわ」
「はいはい、そーですね!」
言っておくけど、恭哉君は私に迷惑かけまくりだからねっ!?
そこんとこ、ちゃんと分かってるのかな。
恭哉君の俺様発言に呆れながら、あっという間にゴミを集め終わった。
後はこの大きなゴミ袋を焼却炉に持って行くだけだけど…
私の目の前には、パンパンに詰め込まれた大きなゴミ袋が3つ。
…絶対みんなゴミを持ってくのサボってたでしょ!
じゃなきゃ、こんなに沢山ゴミが集まるわけないもん!
焼却炉は裏庭の隅にあるため、ここからだと普通に歩いて5分くらいかかる。
この大きなゴミ袋を持って行くとなると、10分近くかかることになるだろう。
思わずため息が零れそうになるのをグッと堪える。
やれやれ…本当は往復しないで、1回で持って行きたかったけど、危ないしやめておこう。
ここは安全策をとって、一つずつ確実に持って行こう。
よしっ!
さっさと終わらせちゃおう!
気合いを入れ、ゴミ袋を手に持つ。
あ~やっぱ重いよ~…。
この作業を後2回もするなんて…気が遠くなるな~…。
「おい」
教室を出て行こうとすると、後ろから声をかけられる。
「なに~?これ重いから早く…きゃっ」
振り返りながらそう言おうとすると、突然持っていたはずのゴミ袋が私の手からいなくなっていた。
そしていつの間にか後ろに立っていた、恭哉君の手の中にあった。
「えっ、恭哉君?」
なんで恭哉君が私のゴミ袋を持ってるの?
クエスチョンマークが頭を飛び交っていると、
「手伝ってやる」
そう言って床に置かれていた、残りの2つのゴミ袋も手にしたのだった。