「ヒューヒュー♪とうとう恭哉認めちゃったね♪」
「今更隠すことじゃないし、いいよもう」
茶化してくる遊を一睨みし、やれやれとため息をつく。
「私はちょっと意外だったな。まさか恭哉君が恵那のこと好きになるなんて」
「…俺だって好きになるつもりなかったわ」
ていうか、誰か1人を本気で好きになったのなんて、恵那が初めてだし。
訳分かんないのは俺の方だっつーの。
「恵那のこと、よろしくね」
「…あぁ」
「恭哉!いくらなんでも恵那ちゃんが可愛いからって無理矢理襲ったらダメだからなっ!?」
「…分かってるわ、んなこと。気長に待つよ」
…つっても、結構限界が近づいてきてるけど。
正直待てないっていうか、もう待ちくたびれた。
あんな目で見つめられたら、理性保てないだろ。
むしろ今までずっと我慢出来た俺を褒めてほしいくらいだ。
「気長に待つ必要ないと思うけど?」
「は?」
七井の言葉に疑問の声をあげる。
アホ面を浮かべる俺に続けて口を開く。
「女の子は推しに弱いのよ。だから、待つんじゃなくて、言わせるように仕向ければいいのよ」
「おおっー美冬すごい!言ってることはよく分かんないけど、それ俺もいいと思うぜ!」
…さっぱり分からん。
言ってる意味が分からんが、それを口にすると遊と同レベみたいな気がしてムカつくから、言わないけどさ。
「じゃ、私たちは先帰るから」
「またな恭哉♪」
「あっ…おいっ!」
頭を悩ませる俺を置き去りに、2人は教室を出て行ったのだった。
「あーもうっ…わけわかんねーよ」
###♡
今日はいつにも増して、生徒たちのテンションが高い。
その理由は今日の放課後にある。
夏休みにどこかの運動部が全国優勝をしたらしく、そのお祝いを今日の放課後学校全体でやろうという話を今朝担任からされたからだ。
先生の話を途切れ途切れでしか聞いてなかったから、詳しいことは分かんないんだけど、表彰式の後に、キャンプファイヤー(?)とか、フォークダンスとか、出店とか、とにかく打ち上げ的な感じで盛大にお祝いするらしい。
何故それを当日の朝聞かされたのかというと、それは担任がうっかり伝え忘れていたからである。
そのため全ての部活動は中止で、打ち上げには全員参加となっている。
「美冬っ、打ち上げ楽しみだねっ」
「そうだね。後で、遊と恭哉君にも声かけとこうか?」
「あっ…うん!そ、そうだね!みんなで回ろう!」
私は咄嗟に作り笑顔を浮かべ、張り切った様子をみせた。
恭哉君とはあの日以来、特に変わったことはない。
いつも通りみんなでお昼ご飯を食べたり、一緒に帰ったり。
別に喧嘩をしたわけじゃないから、普通に話だってする。
ただ、どうして恭哉君は何も答えてくれないのか、それだけが疑問に残っていた。
からかって冗談言っただけなら、そうやって言ってくれればいいのに。
それともいつもみたいな気まぐれだったの?
時々、恭哉君のことが分からなくなる。
あんなに近くに居たと思ったら、気づけば遥か遠くにいる。
私の手の間をすり抜けて、その本当の部分には触れさせてくれない。
もどかしい気持ちと、そうだよねって納得してしまう気持ち。
両方が私の中にある率直な感情だった。
とにかく今日は一旦恭哉君のことは忘れて打ち上げを楽しもうっ!
こういう学校行事はノリと勢いで楽しまないとね!
無理矢理気持ちを入れ替え、放課後が来るのを楽しみに待った。
そして放課後となり、体育館で表彰式を終えると、いよいよ楽しみにしていた打ち上げが始まった。
外は薄暗く、仮設ライトが生徒たちを照らす。
それはとても賑やかなもので、早くも打ち上げ気分全開だった。
「ねえねえ、とりあえずグラウンド行ってキャンプファイヤー行こうぜ♪」
「んー、そうね。恵那も行くよね?」
「うん!行く行くっ」
テンションの高い遊君につられるように、私と美冬も気分上々だった。
しかし、この場に若干1名、テンションの低い者がいた。
「俺はパス。保健室で寝るから、お前らだけで行ってこいよ」
「はっー!?せっかくの打ち上げなんだぞ?ノリ悪いなっ」
恭哉君は遊君の絡みを雑に扱うと、そそくさといなくなってしまった。
恭哉君どうしたんだろう?
何かあったのかな?
するとそんな私の様子を見てか、美冬がニヤリとした様子でこっそりと耳打ちをしてきた。
「恭哉君がいないと寂しい?」
「えっ!べっ、別にそんなんじゃないよっ」
さっ、寂しいなんて私は別に…
ただちょっと、どうしたんだろうって気になっただけだし?
「ふーん?まっ、とりあえず3人で楽しもっか」
「そうだねっ」
恭哉君のことは少し気になるけど、起きたらきっと戻ってくるよね。
私たちはグラウンドへと場所を移動させると、すでにそこには沢山の生徒で溢れかえっていた。
中央では大きなキャンプファイヤーが上がり、それを囲うように離れたところに出店など出ていた。
「よーしっ、美味いもんいっぱい食って恭哉に自慢してやろうぜ!」
「いいねっそれ!」
「もう2人とも調子に乗って食べ過ぎないでよね」
暫く3人で楽しく打ち上げを満喫していると校内放送が流れ出した。
「えー、まもなく打ち上げのフィナーレを飾る打ち上げ花火を致します。生徒の皆さんはグラウンドへと集まるように」
「打ち上げ花火やるんだね!」
「いいね、楽しみじゃん」
「あっ、恭哉起こしに行く?」
そういえば、まだ保健室で寝てるのかな?
せっかくの花火だし、恭哉君も絶対見たほうがいいよ。
…それに、私も一緒に見たいし。
「なら、私と遊で場所取りしておくから、恵那が恭哉君を呼びに行ってよ」
「えっ私?」
「そうだな!恵那ちゃん頼んだ!」
「分かった!じゃあ…呼びに行ってくるね」
なんか…2人とも笑みを堪えてる感じな気がしたけど、気のせいかな?
そして2人に見送られ私は校舎へと向かった。
校舎内はほとんど電気がついておらず、ところどころ明かりが点々としているだけだった。
生徒はグラウンド集合と言われているため、校舎内にはすでに人気はない。
なんか夜の校舎って趣があるよね。
オバケとか出そう…じゃなくって、早く保健室行かないと始まっちゃうよ!
足早に1階にある保健室へと向かう。
あれ…電気ついてない。
もしかして、帰っちゃったのかな?
私はそんなことを思いながら、ゆっくりと保健室のドアを開けた。
「恭哉君?…いる?」
保健室の中を覗き込むと、ベッドの端に腰掛ける恭哉君の後ろ姿を見つけた。
「あっ恭哉君!」
「…恵那か」
私の声に反応して振り返った恭哉君と目が合う。
保健室内は電気がついておらず、窓の外から差し込む月明かりに照らされていた。
その月明かりの下にいる恭哉君は何とも神秘的な感じがして、異様な雰囲気を醸し出していた。
「ずっと起きてたの?」
「いや、今さっき起きた」
そんな会話をしながらベッドへ座る恭哉君の元へ歩む。
「今から花火やるんだけど、よかったら恭哉君もグラウンド行こう?2人とも場所取りして待ってるよ」
「俺はいい」
「えーっ!なんで?せっかくだし、みんなで花火みようよ!」
私は恭哉君の隣へと腰かけ、その様子を伺う。
「俺は人混み嫌いだから」
「そういえば、夏祭りの時もそんなこと言ってたよね」
こうやって恭哉君と2人きりの空間にいるのは久しぶりに感じる。
私たちだけしかいない2人の世界。
時間の流れがとてもゆっくりに感じる。
「とにかくみんなのとこ戻ろうよ。ね?」
「…」
ベッドから立ち上がり、綺麗な整った顔立ちを見つめる。
しかし恭哉君からの返事はなく、その瞳は何に向けられているのか分からない。
そんなに花火に興味ないのかな~。
まあ、それなら仕方ないか。
…本当は一緒に見たかったけど。
「…じゃあ、私は戻るから…気が向いたらグラウンドに来て………へ?」
保健室を立ち去ろうとすると、恭哉君に腕をギュッと掴まれたのだった。
「恭哉君…?」
「ダメ、行くな」
恭哉君の瞳は私の目を捉え、掴んで離さなかった。
「恭哉君?どうしたの…?」
「…やっぱ俺、気長に待つとか無理だわ」