俺が好きって認めれば?【完】

「あっいたいた♪」


「恵那~?無事だった?」


「あっ美冬に遊君!どうしてここに?」


「さっきここにいるって、恭哉からメールが来たんだよ♪」





そ、そうだったんだ。


…ていうか、呼んでたなら言ってくれてもいいのに!





「来るのおせーよ。待ちくたびれた」





そう言って恭哉君は眠たそうに大きな欠伸をする。





「いや~ごめんごめん♪ついつい射的勝負に夢中になっちゃって」


「えっ!?2人ともお祭りに行ってたの?」


「うん。だって追いかけられてるのは恭哉君だし、遊なら逃げる必要ないからね」


「え~ずるい!私も射的やりたかったのに」





私たちなんてどこにも行かずにずっとここに居たのに。


まだ全然お祭りを楽しめてないよ~…!





すると突然美冬が私の耳元でこっそりと呟く。





「恭哉君と何かあった?」


「えっ!?な、なにかって」





突然の問いかけに動揺を見せると、美冬はクスリと笑みを浮かべる。
「何となく聞いてみただけだったけど…また今度詳しく聞かせてね」


「み、美冬…っ!」





か、カマかけられた!


私ってば、どうしてこんなにも分かりやすいのよ~…!





…美冬には元々話すつもりだったからいいけど。





チラリと恭哉君の方を見ると、遊君と何か話しているようだった。





…とりあえず、さっきのことは置いておこう。





期待できないけど、いつか恭哉君が本当のことを教えてくれるのを待つしかないもんね。


恭哉君の気まぐれに付き合うのはもう慣れてるし…。





…でも、もしそんな日が来たら、私どうするんだろう?


それを聞いて、どうなるんだろう。





知りたいような…知りたくないような。





私は恭哉君に何を求めてるんだろう…?
「とりあえず腹減ったし、何か食べに行きますかっ♪」


「賛成。お腹空いたし、早く行こう」





2人の言葉を合図に私たちはお祭りの会場へと戻り、ようやく祭り気分を味わうことが出来た。





恭哉君とは何事もなかったように普通に話し、いつも通りからかわれ、みんなで楽しい時間を過ごしたのだった。





私にとって今日という日はきっと一生忘れられない思い出深い日になっただろう。





恭哉君…


いつかちゃんと、その時が来たら本当の気持ちを教えてね?





私、待ってるから。


どんな返事が来ようと受け止められる私になるからさ。





「恵那~?ボサっとしてると置いてくよ」


「あっ待ってよ~!」


「ボケっとすんな。迷子になりたいのかよ」


「ちょ、その言い方はないでしょ!」





とりあえず今日はみんなで楽しい時間を過ごせればいっか。
###♡





夏休みも折り返し地点にやってきていた。





クーラーの効いた涼しい部屋で、優雅に時を過ごしていると、突然事件は起きたのだ。





「どうして私が恭哉君の補習の手伝いをしなくちゃいけないんですかっ!」





「まあまあ、落ち着こうな、沖原」





静かな職員室に響く私の叫び声。


それと、怒る私を宥めるような声で対応する担任。





「落ち着けませんよっ!補習なんだから1人でやらせればいいじゃないですかっ」





突然担任から電話が来たかと思うと、何故か学校へと呼び出しをされたのだ。





「いやーだって、誰かが見張ってないとサボリそうじゃん?生憎、他の先生は今日休みだし、俺も他の仕事が山積みで手が離せないんだよ~」





意!味!が!分!か!ら!な!い!!


だから、どうして私が恭哉君の補習を見ることに繋がるわけっ!?





そもそも私も生徒なんだけど…!


補習を見てあげるのは、先生の仕事でしょうが!





「誰かいい人いないかって探してたら、沖原が浮かんだんだよ」


「いや、だからどうして私ですかっ!?」
「え?だって2人って付き合ってるんじゃないのか?」


「…はあああっ!?」





え?と、とぼけた顔をする担任に、私は再び職員室一体に響き渡る声で叫んでいた。





いやいやいやっ…!


何言っちゃってるの…!?





「私と恭哉君は付き合ってないですからっ」


「あ、そうなの?仲がいいからてっきり付き合ってるのかと思ってたわ」





と、呑気に笑う担任に大きなため息を吐く。





全く…勝手に変な勘違いしないでほしい。





「まあ、とにかく教室で課題やってると思うから、ちょっとだけ見てやってくれよ」


「えー…分かりましたよ…」





頼まれたら断れない性格の自分が憎い。


…こういうところが、お人好しっていうことなのかなあ。





笑顔で手を振る担任に嫌な目を送りつつ、職員室を出て教室へと足を向かわせた。
そういえば恭哉君と会うのって、あの夏祭り以来だよね。





「…夏祭り、か」





…あの日のことは、ずっと胸の中に閉まっている。





今でも鮮明に思い出せる、恭哉君の温もり。


それに、感触や声や匂い。





思い出すたびに胸がドキドキする。





早く、早く…恭哉君の気持ちが知りたい。





焦る気持ちが日を重ねるごとに増していく。


どんどん我が儘になって、欲張りになってしまう。





私は…恭哉君に何を望んでいるのかな。





…って、だめだめ!


今はそんなことを考えてる場合じゃないでしょ!





とりあえず、ちゃんと課題やってるか確認してさっさと帰ろっと。





そして教室までたどり着き、深呼吸をすると、ゆっくりドアを開けた。





「恭哉君…?」


「…」
恭哉君が自分の席で座っている後ろ姿が確認できる。





返事がない…。


まさか、無視してるとかじゃないよね!?





ゆっくりと席へと近づくと、スースーと寝息が聞こえた。





「えっ、ちょ、寝てるのっ?」





正面に周り顔を覗きこんでみると、気持ちよさそうに眠る恭哉君の寝顔が伺えた。





うわっ…綺麗な寝顔…。





一瞬そんな寝顔に見惚れてしまいそうになったが、机上に広げられたままの課題が目に入る。





どれどれ…





って、全部終わってるじゃん!


しかも全問正解してるし。





私はビックリして目をパチパチとさせながら、何度も課題を見つめる。
恭哉君って実は頭がよかったりして…?


って、それはないよね。補習受けてるわけだし。





ていうか、これなら私が手伝いに来た意味全くないじゃん!





…やっぱり担任には一言文句を言っておかないと…。





やれやれと思っていると、身じろぐ声が聞こえ、薄っすらと目を開く恭哉君。





「…あぁ…?あれ、恵那…?」


「あ、起きた」





課題を机に戻し、欠伸をする恭哉君に呆れた目線を送る。





「なんでここにいるんだよ。あ、もしかしてお前も補習?」


「違うわっ!私は恭哉君と違って優秀だもんっ」





相変らずな様子にため息が出そうになる。





「あっ、分かった」





そう言って恭哉君がニヤリとした笑みを浮かべたことに、気付いた時にはもう遅かった。
腕をグッと引かれ体勢を崩し、次の瞬間には恭哉君の顔が目の前にあった。





「えっ…」





突然のドアップに驚いて声も出せないでいると、恭哉君は不敵な笑みを浮かべたまま口を開く。





「俺に会いたくて、会いにきたんだろ。可愛いね」





「…はっ」





そして頬に柔らかい感触がしたかと思うと、チュッと小さなリップ音を立てキスをされていたのだ。





「ねっ、寝ぼけてるの…!?」





私は恭哉君の腕を振り払い、後ずさる。


そしてキスをされた頬を手で触れる。





ゆっ、油断した…!


まさかキスしてくるなんて…最低っ!





突然こんなことをされて怒るはずなのに…嫌なはずなのに…。


私の胸の鼓動は気持ちとは裏腹に、ドキドキと鼓動を増す。