「授業なんてサボればいいだろ」
「でも…やっぱり私は」
そう言って立ち上がろうとすると、
「いいからこっち来いよ」
腕を強引に引かれ、気づけば恭哉君の腕の中に納まっていた。
「きょっ、恭哉君!?」
いつの間にか私の頭の下には恭哉君の腕が。
なっ、なっ、なんですかこの状況は~…!
余りにも近すぎる距離に、頭の中は大混乱状態だ。
こんなの無理っ!
ドキドキしすぎて死んじゃう…!
しかし布団から逃げようとすると、それを逃さないと、恭哉君のもう片方の腕が私の身体を抱きしめる。
「きょっ、恭哉君…!これはやばいって…誰かに見られでもしたら」
「鍵かけといたから平気」
いっ、いつの間に…!
もしかして、最初っからサボるつもりで!?
恭哉君と密着しているため香水の匂いを強く感じる。
「きょ、恭哉君…!香水の匂いが私にまで移っちゃうっ…」
「いいじゃん」
「だ、駄目だって…!みんなに怪しまれるじゃん…!」
「ふっ、それいいかもね」
恭哉君は計画通りと言わんばかりの顔で、ニヤリと微笑んでいた。
「とっ、とにかく私は教室に戻るから…っ」
こんな状況私には耐えられない…!
そもそも恭哉君とベッドで抱き合って寝るなんて、これ以上に危険なことはない…!
すると恭哉君は「あーもう」と、少し苛立ちを見せると言った。
「黙って隣に居ればいいんだよ」
「えっ」
恭哉君から伝わる温もりが、私の身体を温めてくれる。
触れ合う肌が少し恥ずかしいが、それすらも心地よくなる。
私はいつの間にか、恭哉君の温もりに包まれていた。
そして心のどこかで、この温もりから離れたくない。
そう思う自分がいた。
初めは抵抗していたものの、次第に抵抗するのをやめた。
そしていつの間にか、身を委ねるように、恭哉君の腕の中で目を瞑る。
「温かいだろ」
「…うん」
なんだろう…すごく、安心する。
恭哉君がここにいるって、全身に思い知らされてるみたい。
…少しくらい、気を許しちゃってもいいよね。
更に恭哉君にギュッと抱き寄せられ、いつの間にか意識を手放したのだった。
###♡
翌日、私は学校を休んだ。
理由は、勿論発熱です、はい。
昨日の雨にうたれたのが原因といって間違いない。
「恵那~!私これから仕事に行くけど、安静にしてるんだよ~?」
「はーいっ」
1階から聞こえるお母さんの声に反応し体を起こすと、再びベッドへと横になる。
…駄目だっ。
昨日のことが、恥ずかしすぎて、思い出したくない…。
「あああっ!なんであの時、恭哉君と一緒に寝ちゃったんだろう…!」
遡ること1日前…
ようやく眠りから覚め、時刻を確認しようとすると、下校のチャイムが鳴った。
そう、午後の授業を丸々サボってしまったのだ。
スマホを確認すると、美冬からの不在着信が数十件。
すっかり美冬に連絡することを忘れていた。
やばっ…!
美冬、絶対怒ってるよね…。
「んぅ…」
すると、私の隣でモソモソと動く気配を感じる。
「…ぎゃああっ」
そうだった…!
私、恭哉君と一緒にベッドで…!
我に返った私は、自分のやってしまった過ちに、後悔の念を抱いた。
どどどど、どうしよう。
とりあえず、恭哉君が起きる前に、こっそりと…
そう思い、ベッドから起き上がろうとすると…
「色気のない声で叫ぶな、うるさい」
そう言って、大きな欠伸をしながら恭哉君がムクリと起きたのだった。
「きょ、恭哉君…!」
私は恥ずかしさのあまりベッドからすぐさま降りた。
何やってんだ…私…!
なんで、なんで恭哉君とベッドなんかに…!?
そして徐々に蘇りだす記憶。
恭哉君の腕枕で、2人で抱き合うように一緒に寝た光景。
全てがフラッシュバックするように、頭の中を駆け巡った。
ばかばかばかっ…!
こんなの忘れないと…!
て、てゆーか、私、ぐっすり眠っちゃってたけど、寝てる間に変なことされてないよね…!?
「なに今更照れてんだよ」
「べっ、別に照れてないし」
恭哉君は呑気な様子でベッドに腰掛け、大きな欠伸をしていた。
私はそんな恭哉君に顔向けできず、背を向けた。
「一緒にベッドを共にしたくせに」
「へっ、変な言い方やめてよ…!あの時は、私もどうかしてたってゆうか…寒さで頭が変になってて…!」
と、苦しい言い訳をするしか、他になかった。
言い訳になっちゃうかもしれないけど、半分くらいは事実だし…?
あの時の私は、本当にどうかしてた…。
「ふーん?じゃあさ」
「え?なっなに!?」
恭哉君はベッドから降り、気づくと私の真後ろに立っていた。
「もう1回…頭ヘンになってみる?」
わざと身を屈め、私の耳元で甘く低い声でそう囁いたのだった。
恭哉君の声に反応するかのように、身体がビクッと震える。
そして、嫌でも心臓がドキドキとしてしまう。
恭哉君の気まぐれな一言に、私は翻弄されっぱなしだった。
「いい加減、私をからかうのやめてよねっ!」
「だって恵那の反応面白いもん」
こいつ~…!
恭哉君は私から離れ、ケラケラと呑気に笑っていた。
やっぱり、私のことからかって楽しんでるんだ!
私がどういう気持ちなのかも知らないで…!
いつまでも、私で遊ぶのはやめてよね…っ!
ギロッと鋭い視線を向けてみるも、恭哉君はそんな私さえ手の上で転がすように、余裕な視線を返してくる。
「とっ、とにかく!今あったことは全部忘れてっ!それで絶対このことは誰にも言わないでよねっ!?」
「恵那がキスしてくれたら、黙っててやるよ」
「はああっ!?」
キッ、キス…!?
なに言ってるの…!?
恭哉君のこと好きでもないのに、なんで私からそんなことしなくちゃいけないのよっ!
「しないの?」
「するわけないじゃんっばかっ!」
顔を真っ赤にさせ、焦った表情を浮かべる。
そんな私を見て、恭哉君はクスリと笑う。
「俺のこと好きなくせに」
「はっ!?好きな訳ないでしょ…!」
「ふっ、ほんと嘘つくの下手だな」
なっ、なによそれ…!
自意識過剰なんじゃないの…!?
私は…恭哉君なんて大嫌いなのに…
本当にムカつくのに…
全然好きじゃないのに…。
なのに、どうしてこんなに胸がドキドキするの…?
「もうっ、私先帰るから!」
そう言って私は恭哉君に背を向け、保健室のドアに手をかけた。