「その前に一ついいですか」


「なんだよ」


「百人一首でどうしても思い出せない歌があるんです」



いつか下の句を知りたいと思っていた。


それを教えてくれるのは土方さんなんだって、どこかで感じていたから。




「君がため惜しからざりし命さへ


長くもがなと思ひけるかな」



上の句、そしてあたしがずっと求めていた下の句まで風が吹くようにすんなりと詠ってくれたとき、



「まるでお前みたいな歌だな」


「褒めてるんですか」


「褒めてるっつーの」



まるであたしの歌みたいだと言ってくれた土方さんの大きな手が、頭をなでてくれる。



「悪かったな。今まで苦労させちまって」


「土方さん?」



苦労なんかしてないのに。


あたしをここに連れてきてくれたこと、土方さんには感謝してもしきれない。


なのに土方さんはいま、なんて言おうとしてるの?












「――――総司と一緒に、大坂へ行け」