「理仁、あんたもケガくらいならしていいけど、無茶はしないでね」


「当然でしょ。ケガもしたくないよ~、おれは」



望みを言葉に乗せてチカラを込めて、音を立てずに世界へ放つ。



【この人生がこれ以上、ぶっ壊れませんように】



なんてね。チカラの無駄遣い。


個々の人間を自在に従わせるおれの号令《コマンド》も、世界だなんて曖昧な対象に向けるんじゃ効力はない。


死力を尽くしたら、天災の一つくらい起こせるのかもしれないけど、やってみるつもりもないし。



重たいよな。


直径二センチちょっとの朱い石ひとつが、ただただ重い。



どうしておれなんだ?


繰り返す問いに、朱獣珠はいつも一つだけ答える。



――因果の天秤に、均衡を。



笑っちゃうんだけど。


こんな厄介きわまりないトラブルを抱え込む見返りが、号令《コマンド》っていうチカラだけって。


それこそ、均衡めちゃくちゃだろ。ひでー話だ。