それから黒い人たちが来て、あの人は連れていかれた。

あの人がナイフで傷つけた白薔薇が地面に落ちていた。

心臓をひとつきにされたお母さんの身体からありえないぐらい血が零れている。

その血が、白薔薇を染めていく。

深紅へ。

『……相良さん』

誰かが呟いた気がした。血が、白を染めていく。

コワイ

こわい

怖い



『……いやぁぁぁぁぉぁぁぁっ!』

辺りにひろがった、血色と彼女の黒髪。

幼いあたしにとっては、それだけで衝撃だった。

あたしを刺そうとしたあの人からあたしを庇ったお母さん。

いくらおばあ様に罵られても、お母さんだけはあたしの味方だった。

あの頃は幸せだった。

お父さんはあたしと血が繋がっていなかったのに、本当の娘みたいに可愛がってくれた。

「……お、かあさん」

頭がガンガンして、涙がとまらない。

「……麗薇、ごめんな。守ってやれなくて」

琉の声にも、後悔が滲んでいる。


……キオクヲケサナキャ──────____。



自己防衛が働いて……あの日のあたしは記憶をなくした。

それから華王の家はまるで変わったのだ。

「…琉……」

怖くて、悲しくて、琉にすがりついた。



『漣の憧れの人ってだれなの?』

『相良さんだな』

”憧れていいのか分からないけど”

彼は確かにそういった。

それは、喧嘩面でのことなんだろう。

だけど、その言葉があたしは1番怖かった