「咲夜(さくや)、吏人(りと)……」

思い出したくなかった、会いたくなかった昔の仲間。

「ここで逃げるとか、おかしーんじゃねぇーの?」

「柊星(しゅうせい)……」

4人に取り囲まれて、身動きが取れない。

包み隠さない素のあたしも、薔薇姫としてあたしも大好きでいてくれたひと。

「やっと、会えたな」

咲夜がこちらに手を伸ばす。それは、悪夢の光景で……。

「…ぃ、いやぁぁっ!」

「ほら、おいで」

吏人に引き込まれる。

「待ってた」

柊星が、優しい言葉を吐く。

嫌だ。あたしは……あたしは漣が好き。

初めは、あたしを愛してくれるならなんでもいいと思っていた。

だけど、無条件に惹かれるの。

そばにいて欲しい。笑って欲しい。

あの香りも、あたしを呼ぶ優しい声も、二人きりになると突然出してくる甘い雰囲気も。それが全て、愛おしい。

こんなにも短期間で人を好きになったのは、初めてだ。

「離してっ」

恐怖に打ち勝ち、身を翻して逃れる。

「あたしは帰らなきゃいけないのっ!……大事なひとのもとへ」

今頃、漣はなにを考えているだろう。

あたしを探してくれているかな?

大河はなにを思うだろう。

あたしを本気で心配して、それから怒りそうだ。自分たちと、あと熱をだしたあたしに。あたしの、不注意に。

千紘はなんて言うだろう。

また、きついけど心配したような言葉をかけてくれるのかな。

千鶴はどんな顔してるかな。

きっと、心配で、心配で……って顔かな。

遙真はどんなことしてるんだろう。

裏で色々手を回してくれているかな。

急いで階段を降りて、真っ暗な空間に、ひとつだけ見つけたドアを目指す。

後ろからは、みんなが追ってきている。

……せめて、ここがどこなのか分かれば…

「あ、あれ……開かないっ!お願い、開いて!」

ドアノブを握りしめ、ドアを叩く。

あたりは真っ暗で、なにも見えないのだ。

「そろそろ諦めたら?」

後ろから迫ってくる人達をチラリとみると、後ろから抱きとめられる。

耳に直接流し込まれる、甘い甘い声。