「あ、えっと…」

3人を引き剥がしたあたしは、唯一の女の子の前に立っていた。

「麗薇です」

「菜音です」

菜音という子はここの姫らしい。そして、万友の彼女らしい。

さっきの喧嘩はカップルの痴話喧嘩か。

「黒髪、綺麗ですね」

「……黒髪?」

あたしは確か栗色に染めたはず、だよね

「……う、うそ」

あたしの髪は真っ黒に戻っていたのだ。

「なに、これどーなってんの?」

「やっぱり麗薇には黒が似合う」

そうやって笑ったのは琉だった。

「栗色にしたのは俺らへの当てつけだろう?だから戻したんだ。」

何もかも、分かっていたのか。

イマミヤの関西弁は完全に抜けていて、普段と全く違う。

さっきまでは大丈夫だったはずなのに……。ゾクッとする怖さ。

……逃げなきゃ

あたしは夢中でへやを飛び出した。

琉や雫雲、イマミヤは追ってこない。

「ふっ、脱出なんてむだだよ」

その笑い声だけが聞こえた。取り敢えず、その廊下を走って窓から外をみる。

「どこ、ここ…」

見慣れない景色と、大きな倉庫。

廊下を走っていると、階段が見えてくる。

あたしはそれを思いきって下っていく。

「……麗薇」

誰かがあたしを呼ぶ声が聞こえて、ますます急ぐ。

踊り場まで降りると、見知りの顔がみえる。

「……麗薇……」

「……りく、?」

それは、あたしがあの最悪の思い出をつくることとなったきっかけの人だ。

「久しぶりだな」

あたしをみて、ニヤリと笑う。

陸はいつも優しくて、なんでも協力してくれる人だった。

『麗薇ちゃんが陸くんと浮気してるって……!』

「こ、ないで…」

彼はゆっくりと階段を登ってくる。

琉は少しだけ大丈夫になったとはいえ、我龍全員が大丈夫になったわけではない。

しかも、あたしの目の前にいるのは、きっかけとなった人物だ。

「逃げんなよ」

「そーだよ、れーちゃん」

後ずさりすると、肩を掴まれる