遠くから、鳥のさえずりが聞こえる。

それは柔らかく、聞き覚えがあって……

それから、目を開ける。


「おはよう、麗薇」

爽やかすぎる挨拶と、甘く、優しい笑顔。

「…な、ぐも?」

「そーだよ、麗薇」

そうやって、あたしの額に手を置いた。

「うん、熱は下がったみたいだね」

「え?」

「麗薇、あの時倒れちゃったでしょ?高熱があったからなんだよね」

あたし、いつの間に疲れていたのだろうか。

「なんか、僕と麗薇がここにいるの、久しぶりだね」

あれ、このひと、前は”俺”と言っていた気がする。

「ごめん、わかんない……あなたのことも、覚えてないんだよね」

雫雲、という名前は漣たちが言っていたから何となく覚えた。

だけど、幼い頃の思い出はどれだけ考えても、覚えてない。

「……そっか、やっぱりあの衝撃が大きかったかな」

「…え?」

「ううん。こっちの話。」

でも、なんであたしがここにいるんだろうか。

あたしが倒れたならば、漣の傍にいるはずだし、あたしが寝かされるのは総長室のベットかあるいは旅行中の部屋。

「ね、ここってどこなの?漣は?」

「ここは、凛龍、僕のチームの倉庫の裏にある建物の部屋。事実上は幹部室だね」

ってことは、倉庫の裏だからここに入れば簡単には攻められない。

「漣は今頃倉庫に戻ってくるところじゃない?倒れた麗薇を抱えた僕を追いかけてきてたよ。だけど、あいつは麗薇を取り返せなかった。それだけだよ。
僕が勝ったんだ」

”僕が勝った”その言葉には、妙な執着が見えた。

……漣、あたしを取り返そうとしてくれたんだ。