「千紘ー!」

あたしが思いっきり襖を開けても、起きる気がしない。

布団を敷布団の外に追いやってしまっているし、寝相は遙真よりもわるい。

「起きて起きて!」

あたしが彼を揺すると手をパシッと払われた。そして、ゆっくり目を開けた。

「……れ、ら」

何故かあたしのほうに手を伸ばしてくる。

ドサッ

あたしの視界は反転した。さっきまでは布団が見えていたのに、今見えているのは和風の天井と千紘。

そして、ニヒルに笑う。

「麗薇、朝から襲って欲しいの?」

「い、や。そーいうのじゃなくて……」

彼はあたしの上に跨っているし、左肩を抑えられている。

「ちょ、どけて」

あたしが自由な右手て抵抗するも、右手は千紘の手と絡められる。

そして、彼の顔が近づいてくる…。

あたしは反射的にギュッと目をつぶった。



「ぷっ、お前何期待してんの?」

陽気な笑い声と共に、あたしのほっぺは千紘の手によって潰される。

「はにゃひて!」

ぱっと目を開けると、爆笑気味の千紘がいる。

「キスするとでも思ったわけ?」

あたしのほっぺから手を離しつつ、顔をずいっと近ずける。

「ち、ちがう!」

「誰がお前なんかにキスするかよ」

そういって、あたしにデコピンをする。これで恥ずかしさと怒りがふつふつと湧いていた。

「もう千紘なんかしらないっ!」

あたしは千紘をどかして、部屋から横暴に出ていった。



「────キスできたら楽なんだろうな……」

千紘のつぶやきを、あたしは知る由もない。