「麗薇が麗薇で良かった」

あたしがあたしで良かった……?

「え、?」

「お前なら、遙真を傷付けたりしないってわかってた。……お前も、辛い過去があるんだろ?だから、お前になら任せていいと思った」

彼はあたしが我龍以外にも抱えていることをわかっているのだろうか。

それとも、調べて知ったのか。

それとも、元から知ったのか。

後者はまずありえないだろう。だって、あたしは幼い頃は漣みたいな人にあった記憶なんてないんだから。

……記憶………?





「…あれ……?」

分かっているのは、ずっと父親から見放されたこと。メイドたちからは冷たい視線を感じていたこと。

あたしを、誰も愛してなかったこと。

こんなに感じたことはわかるのに、過去の思い出は少しも思い出せない。

小学生ぐらいからは覚えているのにその前あたりは全然わからない。

「どうした?」

彼に、心配をかけたくない。きっと、思い出せないなんて当たり前。

「なんでも、ない。」

あたしは海にいこうと、ワンピースを脱いだ。


「麗薇。」

漣の心地よい低音で甘い声。

「お前は水着だけになるな」

すこしだけ、いつもよりも強い言い方。

あたしの水着は華菜と菜月に選んで貰ったもので、白フリルをベースに小さな花が沢山書かれている。そして、スカート杖になっている。

「……なんで?」

あたし、その時のためにこれかったのに。



「死ぬほど可愛いから、他の奴にみせたくない。それ着るの、俺と麗薇だけのときにして」

右手の甲を頬につけて、顔を逸らす漣。



……それから、彼のパーカをきせてくる。