「……ん、ぃ、や…」

抵抗すると口を割って舌が入り込んでくる。

あたしの口内を散々まさぐると舌を絡めてくる。

あたしを奥深くまで求める熱いそれに、あたしはただ酔いしれた。

理性では分かっている。

だけど、本能はあたしと思いと逆の行動をする。

”再び琉があたしを『愛してる』と言ってくれるならそれでいい。”

そう思ってしまっている自分がいる。

もう、時の流れに身を任せれば。

ダメなのに……琉を拒む力もだんだん弱くなっていく。

「そうだよ。麗薇はただ、俺を受け入れればいいんだ。」

耳元で囁かれ、ゾクリとする。

あたしを殴ったあの日とは違う彼がここにいる。

違うんだ。あの日とは。

だから、あたしは素直になりたい。

あたしはずっと、琉を好きだった。

忘れられなかった。

捨てられても、殴られても、その気持ちが揺らぐことはなかった。

いつか、笑ってあたしの名前を呼んで『愛してる』と言ってくれると期待していたから。




────だけど、このままでいいの?

あたしは弱いあたしを変えたかったんじゃないの?

このまま、琉を受け入れれば、あの日々が待っている。

あたしがまた、どこか脆い部分に、暗闇に葬られることになるの

あたしは、あたしを変えたい。

……だから……。


あたしは精一杯、琉の胸を突き飛ばした。

流石総長というのか、琉はあたしからすこしだけ離れただけでよろけもしない。


「なんで、ここにきたの?なんであたしに逢いに来たの?なんであたしに愛してるって言うの?」

語尾が弱くなっていくと、自分自身でも自覚している。

「……そんなの決まっているだろ。」

1歩、また1歩と距離を詰める彼にあたしは後ずさりする。

「────麗薇。」

優しく、名前を呼ばれる。

麗しい薔薇の花。





「────あれは本心なんかじゃない。」


「──俺は、俺たちはずっとお前だけを想ってた。」

「『愛しているんだよ。』」





狂った歯車は、戻る気配などない。

狂ってしまったあたしの運命(サダメ)。

狂わされたあたしの人生。

───いや、あたしの運命はこうきまっていたのかもしれない。


黒い何かが、すっと抜け落ちる。





深紅の薔薇の花言葉は『死ぬほど、恋焦がれています。』

────そしてあたしを愛してほしい。







運命がほんとにあるというならば、これなのだろうか。





逃れられない、あたしの宿命





切れない、あたしの運命






”薔薇姫”