「もう数学始まるよ?」
そう言いながら筆箱を取り、教室を移動した。
この数学の時だけが、私の解放される時間。
習熟度別の授業はまだこれだけだから、しんどい。
夏休み前までは雅も一番上のクラスだったけれど、新学期のクラス分けで落ちてしまった。
雅が落ちてしまったことは残念だったけれど、それ以上に自由を得た嬉しさの方が今は強い。
「あ、このペン使ってるんだー。
うちも好きだよ、この種類。」
出席番号が二年連続前後の亜沙ちゃんに話しかけられた。
「そうそう、書きやすくてずっと使い続けているんだ。」
「分かる!うち、このペン専用の筆箱があるくらいだもん。」
「それすごい」
「でしょ?」
その後もしばらくペンの話で盛り上がっているうちに、先生が入ってきた。
……やっぱり、他の子と話している時が今は一番楽しい。
雅のことは一旦忘れようと教科書に目を落とす。