家に着いてから、やけに緊張する。


根っからの体育会系気質のお母さんを言いくるめることは至難の業だ。


おやつの味もろくに感じられないまま、私はいつまでも黙り込んでいた。


「華夏、喋らないんだね。

珍しい、何かあった?」


さすがお母さん。


腹を括った。


「……部活、辞めたい。」


「……え?どうして?」


理由なんて、腐るほどあるのに、一瞬言葉に詰まった。


どこから手をつけたらいいのか混乱した。


「いじめられている。」


驚くほど冷たい声だった。


シュミレーションでは、ここで泣きながら訴えるはずだったのに。


「……は?」


理解していないのか。


まあ、お母さんはいじめとは縁遠そうだし。


「……いじめられているの。」


今までの私の立場に、遂に名前が付いた。


『いじめ』


頭の中で反芻すると、改めて私はいじめられているんだと実感した。


「……な、何それ、どういうこと?」