寒い。
長袖長ズボンでなければ凍死してしまうんじゃないかってくらいの寒さだ。
最近は日が落ちるのも早いから、ボールも見えづらい。
気をつけないと、先輩のラケットに当たってしまう。
この前、先輩がラケットを振っていることに気付かずに先輩の足元にあったボールを拾おうとして、ラケットで顔を叩かれてしまった。
あの痛さは尋常じゃなかった。
よそ見をしていた私も、気付かなかった先輩も、お互いに悪かった。
今日もネットに向かってひたすらサーブの練習をしていた。
昨日まで4日連続でやっていた30分間走よりは全然ましだ。
あれこそ心臓に悪い。
そうやって注意散漫になっていたからだろうか。
私の打ったボールが香織ちゃんに当たってしまった。
しかも、首。
うわっ、やばい。
そう思った時にはもう遅く、渋谷さんの厳しい目線が向けられていた。
「……人が通ろうとしていたの、見えなかったの?」
果たしてこれは本人の意思か、それとも保坂さんに教えられたのか、なんてことを場違いにも考えていた。