カズは、あふれそうになる涙を必死に堪えていた。


「…自分のことや、家族や親戚のことは覚えてる。ただっ……」


言葉に詰まりながらも、カズがわたしたちに伝えようとしてくれているのは、つらいほどにわかった。

でも、その先の言葉がなかなか言い出せない…。


またカズはコーヒーをひと口飲み、深呼吸して自分を落ち着かせる。


そして、今まで落としていた視線を…わたしたちに向けた。


「…これまでの交友関係をすべて忘れてる。自分がどんな人間に囲まれて、どういう学校生活を送ってきたかも」


…交友関係。

それって――。


「あたしたちのことは…?…それは覚えてるよね!?…あれだけいっしょに遊んでたんだからっ!」


カズよりも先に、優奈が泣きじゃくる。

カズに訴えかける優奈の声は、まるで小さな悲鳴のようだった。