『覚えていない』


その言葉だけは、決して口にはしなかった。



「…かりん!」


少しすると、ロビーにお母さんがやってきた。


「ごめんね、遅くなって…!なかなか駐車場が空いてなくて、停めるのに時間がかかっちゃって…」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」


車を停めたあと、急いで駆けつけてくれたのだろうか。

お母さんは、肩で息をしていた。


「…隼人くんは?会ってきたの?」

「…うん。でも、途中で具合が悪くなったみたいで…」

「そう…。まだ目覚めたばかりだから、仕方ないわね。早く元気になるといいわね」

「そうだね…」


あえて、お母さんには詳しく説明しなかった。


…まだ、自分の気持ちに整理がついていないから。

それに、お母さんに余計な心配もさせたくない。


きっと隼人は、元通りに回復する。