わたしが隼人に会いたいと思うだけで、それは隼人にとっては迷惑なことなんだ。

さっき会ったときだって、記憶が混乱しなかったことが幸いと言える。


わたしの顔だけじゃなく、名前すらも隼人の中から消える。

…これが、隼人にとって一番いいことなのかもしれない。


もう…わたしと隼人は赤の他人。


――それが、隼人のため。



隼人のお母さんがいなくなった屋上で、ぽつんと佇むわたし。

心にぽっかりと穴が空いてしまったみたいに、なにも考えることができない。


車椅子の隼人の後ろ姿――。


その光景が目に焼きついて、隼人が出ていった屋上の出入口をただぼんやりと見つめることしかできなかった。


「…かりん」


ふと呼ばれた自分の名前。


見上げると、カズだった。


「…ああ、カズ。…ごめんね!1人でぼうっとなんかしちゃって…!」