「記憶は…もう思い出さなくていいの!幸い、失くしたのは交友関係の記憶だけで、私たちのことはしっかりと覚えてくれている…」


抑えきれない思いが涙となって、隼人のお母さんの頬に流れる。


「…だけど。また混乱を招くようなことがあれば、…次はどの記憶を失うかわからないと言われているの。もし…それが私たち家族の記憶だったらって考えるだけで、こわくて…こわくてっ…」


隼人のお母さんは、その場で泣き崩れてしまった。


その話を聞いて、胸が締めつけられた。


新しい隼人の生活のために、わたしが不要ということじゃなくて…。

わたしのせいで、隼人がまた記憶を失くすかもしれない。


隼人の家族は、…それが怖いんだ。


だから、わたしは隼人に会っちゃいけなかったんだ…。



前に、病室前で初めて会ったときは――。