「…ああ。俺、足を滑らせたみたいで、歩道橋の階段から落ちたんですよ」

「…えっ……?」

「聞いて呆れるでしょ?それで頭打って、記憶を失くすって…。自分でもバカだなって、つくづく思います」


今となっては、自分のドジが招いた笑い話のようにわたしに話す隼人。


…でも、違う。

そんな理由なんかじゃない。


隼人は自分の命をかけて、わたしを助けようとしてくれた。

隼人の記憶にわたしはいなくても、隼人はだれかを守るために記憶を失くしたんだよ。


ドジでも、バカでもない。

そんな自分を誇ってほしいのに――。


…隼人のすべてから、わたしの存在は消えていた。


「…もしよかったら、最後に名前だけでも聞かせてもらってもいいですか?」

「…えっ、わたしの…?」

「はい。せっかくきてくれたから、覚えておきたくて。それに、新しい記憶になってからの、初めての友達になるので」