彼女を咎めたいなんて感情は浮上しない。

そんな感情の方がいくらかまともであったのか。

嗚呼、どうしようか。

俺も大概最低な人間だ。

壊れて泣き縋ってきた彼女に同情や哀れみより強く感無量に震えるなんて。

彼女の不幸せの告白が情のカケラもない自分の耳には酷く心地のいい旋律に聞こえて。

この上なく狂おしい程愛おしい。

「……ピヨちゃん。……顔、見せて」

「先生?」

「……疲れた(不幸な)顔して。…可哀想に(愛おしい)」

言葉と胸の内は裏腹。

一致しているのは彼女に触れる愛おしいという感情ばかりか。

頬に触れて目元を親指で擽ってやれば、キョトンとした眼差しで見上げていた彼女が不意にクスリと笑ってくる。

まるで子犬の様な素直な反応には少々戸惑う心もあるけれど。

「フ…フフッ…先生、」

「ん?」

「先生……鬚ありますねえ……」

「……あるな」

「髪ももさもさ……ルーズになっちゃって……フフッ…」

「……禿げてるより良いだろ」

「………はい。……良いですよぉ。先生は先生であるだけで昔からずっと私の中では良いですよぉ……」

「っ……」

抱擁のやり返し。

スッと伸びてきた華奢な手は確認する様に顔に触り髪に触り。

伝わる感触だけでもいちいちゾクリゾクリと感じていたというのに、トドメとばかりの鼓膜への刺激。