「先生、先生……」

「ピヨちゃん、…とりあえず中入ろうか?」

「先生…私…痛いの、…苦しいの…」

「うんうん、あ、そこ段差あるからね、」

「先生、先生、私最低で…嫌な女で…」

「大丈夫だよ。最低じゃない人間なんかそういないから。…はい、頑張って歩いて、」

「先生……先生…」

「ほら、ベッドに座って、」

「先生…私…」

「今水持って来るから」

「私……逃げて…きちゃった」

「………」

「耐えられなくて、…もう我慢するのも限界で、どんなに甘くてもあの人は人のもので。誰かの幸せを踏み躙ってる自分も凄く嫌で。…っ…寂しくて…寂しくて……っ…泣きたい」

「…………」

「っ……先生、」

『泣かせて』

そう哀願する様な指先の力を背中に感じる。

彼女を言いなだめ背を向けた刹那、縋る様に服を掴んできた力は実に弱々しいのに一心は強固。

俺しかいない。

そう言われた様な訴えにどうして背を向けたままでいられようか。

振り返りその双眸と視線を絡ませれば、まるで赦しが下りたとばかりに再び体に腕を回されて。

背中に得る熱と存在感には、可笑しな話懐かしくも自分の動悸をはっきりと感じた。

「……頑張ってきたんだね、ピヨちゃん」

「っ……そう…思ってくれますか?」

「うん。だって…変わらず、頑張り過ぎた顔して…」

「………」

巻きついている手を労わる様にひと撫で。

何よりも先に彼女の努力と疲労を労えば、更に背中に彼女の熱を押し付けられる。

説教なんてしたい奴がすればいい。

いけない事なのだとモラルを持って断罪するのは他の奴でも出来きるし。

もっと言えば、言うまでもない。

彼女自身が一番理解して自分自身を断罪しているのだ。