目を開けると外はもう明るくて、時計を見ると9時を過ぎていた。幸い今日は日曜日で、バイトも学校も休み。もう少し寝ようかと思ったけど、昨日のりくとのLINEを思い出してスマホを手に取る。りくからの返信は無く、既読もついていない。
小さくため息をついて、杏奈にLINEを返す。
" 心配してくれたの?ありがとう😍みかも頑張ってね♥️ "
" うん、ありがとう!"
杏奈とのトーク画面を閉じ、もう一度りくとのトーク画面を開いてみる。
「なんだ。」
やっぱり既読はついていなかった。深くため息をついて起き上がり、階段を降りてリビングに向かう。朝は食欲が湧かないから何も食べない。いつも通りソファに座ってテレビをつけてDVDを入れる。お気に入りの洋画だ。これで見るのは何回目だろう。しばらくすると本編が始まり、見入っているとスマホのバイブが鳴る。画面を見ると、りくからの電話だった。
「もしもし?」
『あ、みか?今日空いてる?』
「うん、暇だよ」
『昨日のコンビニにいるからさ、ちょっと俺に付き合ってよ』
「え?」
『行きたいとこあんだよね、おまえと』
本当なの?本当だったらすごく嬉しい。
「わかった!なるべく早く準備するね」
『ん』
後でね、と電話を切ると急いでテレビを消して準備を始めた。髪をストレートにして化粧を始める。スカートかズボンか迷ったけど、ズボンにした。気合い入れてるって思われたくないから。それからピアスとネックレスとリングをつけて家を飛び出して走る。冷たい空気が顔に当たって少し痛いくらい。コンビニが見えてくると駐車場に見覚えのある黒い車が止まっていた。すぐに駆け寄ると、向こうもこちらに気づき、ドアを開けて出てくる。
「よっ。」
片手を上げるりくに胸が高鳴る。
「お待たせ。遅くなってごめん。」
息を切らしながらそう答える。
「いいよ別に。急に誘ったのに来てくれてありがとな。」
そう言って私のほっぺをつまむ。
「めちゃくちゃ疲れてんじゃん。」
ほっぺをつまみながら笑って言うりくから目が離せなかった。
「だって全速力で走ってきたんだもん。」
りくを睨みながら息を整えていると、
「ん。ありがと。早く乗って。」
そう言って私のほっぺから手を離すと車のドアを開けるりく。
「紳士じゃん。」
茶化すようにそう言うと
「いいから早く乗れよ。」
と軽く背中を押される。触れられた背中が少し熱い。
「よし、じゃあどこ行きたい?」
運転席に座ったりくの言葉に「は?」と思わず声が出てしまった。「ん?」と可愛い顔して首をかしげるりく。
「行きたいとこあるって言ってたじゃん。」
「あー。だってそうでも言わないと来てくれないかなーと思って。どっか行きたいとこある?」
りくと一緒に居られるならどこだっていい。りくに呼ばれたらすぐ飛んでく。なんて言えるわけもなく、ただ呆然としていると、
「ショッピングモール行く?女ってそういうの好きだし。」
と、りくが口を開いて言った。他の人と行ったことあるのかな。彼女とか?あ、そう言えばりくって彼女とかいないのかな。合コン来るくらいだしいないよね。不安をかき消すように、「行く。」と答えると、隣で「ん。」と短い返事が聞こえて車が発進する。しばらくしてショッピングモールに着いた。服を見たりアクセサリーを見たり靴を見たり、有名なコーヒーショップでフラペチーノを買って席に座る。
「なあ、服買ってやろうか?」
「いいの?」
いいけど、と返事が返ってきた途端にりくの腕を引いて立ち上がる。
「ちょ、おい!」
びっくりしているりくを無視して、お気に入りの服屋さんに入る。
「ねえ、これかこれどっちがいい?」
「ん〜、こっち」
どっちでもいいとかどっちも同じじゃんとか言われるのかと思っていたから、りくがちゃんと答えてくれたことに嬉しくなった。
「じゃあこれ絶対欲しい!」
「ん。いいよ。似合ってるし。」
お世辞かもしれない。それでもよかった。りくが言ってくれた 似合ってる って言葉は誰に言われるよりも嬉しくて、鼓動が早まった。するとりくは白いブラウスを1着持ってきて、「これも買ってやるよ。おまえに似合いそうだし。俺が買ったんだから絶対着ろよ?」と笑いながら言った。