「ねえ、哲平ってどんな人?」
同じ大学の同級生なら、何か知ってるよね。杏奈に嫌な思いしてほしくないから、哲平がどんな人間なのか調べておかなきゃ。
「ん〜まあ、明るい。」
「え?それだけ?もっと何か特徴ないの?」
りくの方を見ながらそう言うと、
「優しい」
「他には?」
ん〜〜なんて言いながら哲平の特徴を考えるりくから目を逸らしてスマホの画面を見る。
「あーあいつ意外と一途だよ。チャラそうに見えるけどっていうかチャラいけど。好きになった人には一途だよ。あと、よく笑うし学校祭とかは人一倍頑張ってる。いい奴だよ。」
年を押すように、いい奴だからと小さく言うりくに、「わかった。」とだけ伝え、
" 哲平、いい奴らしいよ!りくからの情報 "
と杏奈にLINEを送る。
これを機に杏奈と哲平が付き合ったとしたらもう合コンに誘われることはなくなる。そう考えてスマホの画面を閉じ、鞄にしまうと車が止まった。
「着いた。ここから歩きだろ?気をつけて帰れよ。」
そう言ってまた頭を二回ポンポンと触られた。
「ん。ありがとう。家まですぐだから大丈夫だよ。」
赤くなった顔を隠すようにりくに背を向けて車のドアを開ける。
「もう合コンとか行くなよ。」
ドアを閉めようとすると、りくにそう声をかけられた。
「りくはもっとみんなに合わせなよ。」
少し笑ってそう返すと、
「うるせえよ。」
という返事が返って来た。
「じゃあな。」
「うん。バイバイ。」
小さく手を振ってからドアを閉めると、ふっと笑ったりくと目が合う。
ドクリ、と心臓が音を立てた。
少しずつ早くなる鼓動に、りくのことが好きなんだと思った。
そんな気持ちを隠すようにりくに背を向けて歩き出す。連絡先、聞いておけばよかったな。ふと後ろを振り返ると、りくはまだそこに居て、私を見つめていた。
寄り道しないでちゃんと家に帰るのに。
そう思いながら今度は大きく手を振った。りくが返してくれるわけもないのに。すると、ふっと小さく笑って、手を振ってくれた。
また心臓が音を立て、鼓動が早くなる。
夜風が少し冷たくてなんだか泣きそうになる。手を振り返してくれたことが嬉しくて、それだけでりくへの好きが増していく。その瞬間、歩いた道を戻ってりくの方へ駆け寄り、窓を開けてと急かす。驚きながら窓を開けたりくに向かって、
「LINE交換しよう!」
と少し早口で言った。
断られたらどうしようとか、初対面で図々しいかなとか、そんな感情はどうでもよかった。ただ真っ直ぐにりくの目を見つめているとははっと笑った。また鼓動が早くなる。顔が熱くなっていくのがわかった。鞄からスマホを取り出しQRコードを出したりくは、
「ん。早く。」
と笑いながら言った。顔が熱い。こんなんじゃ、りくを好きな気持ちがバレてしまうかもしれない。私も鞄からスマホを取り出し、りくのQRコードを読み取った。
「できた?」
「うん。」
このままバイバイするのはなんだか名残惜しくて
「ねえ、また会える?」
咄嗟に口から出た言葉に少し後悔した。こんなの告白してるようなもんじゃん。
「お前が会いたいって思ったらな。」
そう言って余裕そうに笑うりく。
ほんと?私が会いたいって思ったら、また会えるの?
「多分思わないと思うけど。」
嬉しい気持ちとニヤけそうになる顔を必死に堪えて、素直じゃない発言をしてしまった。
「素直じゃねえな。」
そう言って私の髪を触るりく。
ああもう、そんな事されたら。
「素直じゃない子は嫌い?」
どんどん好きになっていく。
「別に。お前ならいいや。子供みたいで可愛いし。」
ああもう、そんな事言われたら。
期待してしまうよ。本当にずるい。
「りく、最初の時より優しくなったね。」
「俺はいつでも優しいよ。ほらもう帰れ。危ないから。帰ったら連絡しろよ。」
バイバイ、と小さく手を振って歩き出す。帰ったら連絡していいんだ。嬉しい。