合コンが行われるお店に着くと、杏奈は扉に映る自分の髪を少し整えて扉を開けた。もう既に杏奈の友達の女の人が2人座っていた。
「お待たせ!」
笑顔で2人に話しかける杏奈の後ろで適当に愛想笑いを繰り返す私。
帰りたい。そんな事を考えていると男の人が4人入ってきた。
「お待たせ〜」
そう言いながら私達の前の席に座る。私の前に座った人はノリ気じゃないのか、くしゃくしゃと頭を掻きながら視線を落としてため息をついている。私と同じで人数合わせのために連れてこられたのかななんて考えて見ていると、ふと目があった。
かっこいい。
暗めの茶色に染めたサラサラ髪。二重で綺麗な目。長い睫毛。少し色黒の肌。大きな手に長い指。
「ねえ」
先に口を開いたのは男の人だった。
「おまえ、」
何かを言いかけた時、
「じゃあ始めよっか!」
という違う男の人の声によって遮られ、乾杯をすると私の苦手な自己紹介が始まった。
だんだん近づいてくる私の順番。
「遠山杏奈って言います!大学一年生です!」と笑顔で始めた杏奈の自己紹介が終わり、
逃げ出したい気持ちを精一杯抑えて
「みかです。杏奈と同じ大学一年生です。」
と適当に済ませる。こんな嘘を付くのは何回目だろう。ため息をついてからふと前を見ると、また男の人と目が合った。でも今度はすぐに逸らされたと思うと、
「りく。大学二年生。よろしく。」
と素っ気ない自己紹介をした。
りくっていうんだ。不思議とこの人のことが気になった。
「おれは哲平って言いまーす!あ、ちなみにりくと同じ大学で同級生!よろしくね!」
哲平を最後に自己紹介が終わった。その後は他愛もない話をしながら食べたり飲んだり楽しそうにしているみんなに合わせて笑ったり相槌を打ったり。まだ高校生ってことがバレないように願いながら場をやり過ごした。すると、「席替えしよ!」という声が聞こえて席替えが始まり、杏奈の横には哲平が座り、私の隣にはりくが座った。
飲み物を飲んでいると
「お前ってさ、」
突然声をかけられる。
「ほんとに大学生?」
うそ。バレた。なんで?教えてないのに。その事を知っているのは杏奈だけで、他には誰も知らないはずなのに。
「え?何言ってるの?私童顔だし背が低いからそう思われがちだけど、ほんとに大学生だよ。」
適当に笑って返したけど冷や汗が出てくる。
「ふーん、そっか。」
りくは興味無さげにそれだけ言うと、
「ごめんもう俺帰るわ。」と帰り支度を始める。
え、もう?周りも驚いている中、哲平は「もう帰んのー?無理矢理誘ってごめんって。気をつけて帰れよー。」と笑っている。
「ん。」と短く返事をしたりくは、私の腕を引いて「行くぞ。」と言って立ち上がった。
「え?」
思わず声が出て、りくの顔を見上げる。咄嗟に杏奈の方を見ると、ニコニコしながら小さく手を振っている。引き止めてよ!なんて思っているとそのまま腕を引かれて店を出てしまった。腕を引かれるまま歩くと黒い車の前で止まった。
「乗って。早く。」
言われるがままに車に乗ると、手首を掴まれた。驚いてりくの方を見ると、
「お前さ、どうせ高校生だろ?何やってんの?送ってく。住所教えて。」
と少し怒ったような顔をして言われた。
「人数合わせの為に誘われたから来ただけだもん。りくは何でつまんなそうにしてたの?もう少しみんなに合わせればいいのに。」
と可愛げの欠片もない事を言ってしまった時にはもう遅くて、
「俺一応年上なんだけど。俺は無理矢理連れて来られただけ。つまんなそうにしてるのはこういう人間だから。」
と少し早口で言われて、さっきの自分の発言をとても後悔した。
怒らせちゃったかな。なんであんなこと言っちゃったんだろう。高校生ってことがバレて焦ってるのを隠す為に強がってみたけど、最悪な結果を招いてしまったと落ち込む。
「別に怒ってない。呼び捨てはちょっと気になったけど。」